そんな時だった。春の終わり、終わっていく季節と一緒にわたし自身を終わらせてしまおうと屋上でひたすらに煙草を吸い始めたのは。




 
 一気に2箱吸い続けて、はじめて煙草が不味いものに感じられた。けれど、同時に生きているのだと実感できた。無味乾燥を煙草は甘い香りと相反する不味さで、彩ってくれた。




 肺が黒く染まっていくところは想像出来なくとも、今のわたしの肺は少しずつ崩れていくのだろう。あと何本吸ったら、死んでしまうのだろう。あと何本吸えば、わたしは生きていられなくなるのだろう。なんて考えて吸う、今この瞬間だけはわたしが生きているんだとわかる。





 量産型に埋もれてだれもわたしを見ない世界で、唯一わたしだけがわたしの生きがいを見ていられる場所にこの屋上はなりそうだった。




 3箱目に手をかけようとした時、突然背後から現れた知らない人に止められた。





 『早死に、したいんスか』




 そんなのきみに言われなくてもわかってると思った。ポッと出の彼にわたしの生きがいを止める権利なんてないのだから。






 「したいよ……出来るなら」

 
 



 そう言って振り返ると、そこにいたのは知らない男の人だったから驚いた。灰色のピッタリとしたマスクのせいで顔が半分も見えないから、よくわからなかったけれど。たぶん知らない人。





 二重だけどキツめの瞳で見据えてくる姿が、どうしようもなくわたしを不安にさせた。