先輩がゆっくりと地面に落ちた煙草のカスを拾う。丁寧に灰皿にあけて、僕の顔を見ずに4本目の煙草を吸い始めた。



 甘い香りに誘われて、先輩に目を向ける。



 厚底で盛った身長分、大人びた横顔。



 それでも思春期に取り損ねた大人になるピースが埋まっていない空虚さを隠しきれていない瞳の奥にあるなにかを、淡いブラウンのカラーコンタクトで覆い隠して。




 リボンとピンクブラウンでまとめた可愛いの武装。大人になって死にたくない子供みたいに、世の中を呪う言葉を吐く唇に塗られたのはベビーピンクのリップ。




 そんな先輩が好きだった。いや、好きなんだと思う。だれも先輩の奥底にねむる暗いものに目を向けない。煙草も、愚痴も知っているのは僕だけ。2人だけの屋上。



 
 いわゆる量産型で集団に紛れても、僕だけは異質な先輩を見つけることが出来る。





 だから……






 「もしも、先輩がだれかに求められたいのなら、僕があなたを求めます。どんな先輩も僕がぜんぶ受け止めます。それじゃ、駄目ですか? 生きる理由にはなりませんか?」





 僕以外に僕だけが知っている先輩の姿を見せないで。見てほしい、と望まないで。求めないで。僕が見ていれば、それでいい。なんて甘い煙草を吸ってください。あわよくば、そのまま僕の肺を壊して、なんて。





 先輩は依然として、煙草を咥えたまま。顔色ひとつ変えない。先輩の頭についたサテンのリボンが風に吹かれて、ゆらりと揺れた。