「……きみになにがわかるの?」
煙草が落ちた地面を見つめて出した先輩の声は震えていた。鋭く毒を吐く時とも、悪戯っぽく目を細める時ともちがう色。まとっていた淡い灰色の煙がとれてしまったような、背伸びをするように盛っていた厚底のつま先が踏まれて転んでしまった時のように弱々しい声。
それから、僕を見上げる。はじめて武装がとけた先輩と目が合った。真っ直ぐジッと見つめてくる、その瞳はまだ細められたまま。
「未成年のまだ煙草さえ吸えないきみに。お酒に溺れて記憶をなくしたい。とか思ったこともすらないきみに。わたしのなにがわかるの?」
煙草の燃えかすから細く煙が上がる。最後の悪あがき、みたいに。
「なにもわからないッスよ。人が心の奥で考えていることなんて、見えないじゃないですか。だから、なにひとつわからない。でも、相手にまっすぐ向き合ってみて、じっくりと考えて、察することは出来るんスよ」
詐欺師にでもなった気分だった。僕が先輩の絶望を孤独を深めているのに。僕はあなたのことをわかってますよ、なんて。けれど僕だって先輩のことを考えて行動しているつもりだ。
煙草を吸って、世界に毒を吐く彼女の横顔は綺麗だったから。そんな彼女を守るために。



