長く唇を押し当てられたままだったせいで、視界が霞む。
ほんのりと甘いいちごみるく。
でも、くるしい。なんて、先輩を押し返すことも出来ないまま……
少しだけ遠くの方で警笛が鳴ったのが聞こえた。
「さようなら」
唇が離れると同時に、目の前であの綺麗な瞳をした先輩が笑う。
なんですか、どうしたんですか?
と彼に聞くことも出来ない。
ぐったりとした身体をうまく操れないまま、
「大丈夫。ぼくらはきっと世界一の悪い子になれるよ」
そう言われた瞬間、身体がふんわりと浮いたように感じた。
先輩に抱きしめられたまま、視界が反転する。
そのまま、今度は耳元で大きく警笛が鳴り響いて……
目の前で見開かれた先輩の瞳には、眩しいほどのひかりが反射していた。
なにもかもわからないまま、
私は先輩と悪い子になるしかなかった。
なにも出来ない身体を、ただ唇の端を歪めて笑う先輩に委ねれば、すぐに強い衝撃を受けた。
意識が飛ぶ一瞬前の暗くなりかけた視界でも、やっぱり先輩の瞳は濡れていた。
ねえ、先輩。
泣かないでよ。
なんて声はもう喉からもどこからも絞り出せずに、先輩とふたりゆっくりと鈍色の車体の下へと沈んでいった。



