「きみ、ぼくの知り合い?」





 「あ、いえ。いや、知り合いまではいきませんけど、顔見知りですよ。たぶん」




 「へぇ、そう。あ、もしかして、きみ帰れないの?」





 絶妙に噛み合わない会話に、今度は私が彼に首を傾げる。





 話しかけられて、すこし期待したのに。知り合いにすら認定されていなかったことが、気に喰わなくてぶっきらぼうに先輩に言葉を返す。





 可愛くない、なんていちごみるくの甘さで満たされた口の中にため息を吐いた。





 「まあ、雨降っていますしね」




 「ねえ、傘、持ってないの?」





 けれどそんなことを気にしないのか、少しだけ私よりも高い位置から喋る先輩は、やわらかく頭を包み込むような声色をしていた。





 それからエナメル生地のリュックサックを肩から降ろすと、なにかを探すように腕だけで鞄の中をかき混ぜた。




 「あった、これ。使っていいよ」





 そう言った先輩は小さく畳まれた折りたたみ傘を私に差し出してきていた。





 あまりに突然の出来事すぎて思考が止まってしまったせいで、先輩の顔を見つめたまま固まった私にまた首を傾げた先輩。