そんな折だった。
 突然の夕立で傘がなくて昇降口で足止めを食らったのは。





 夏休みに入る直前、今日に限って先に帰ってしまったサクを恨む。





 終わらなかった日誌を放課後までもつれ込んで書いていたら、すっかり校舎内は静かになっていた。





 ほんの10分前までは降ってなかったから、帰れると思っていたのに。





 最悪、どうせ降るのなら朝から降ってくれたら、良かったのに。なんて今更雨が降る空を睨んでみても、雨は止んでくれない。





 口にいちごみるくの飴を放り込むと少しだけ憤りが収まって、このまま雨に濡れて帰ってしまうのもいいかもしれない。と思えてきて、誰もいない昇降口でひとりくすりと笑った。





 「あ、雨だね」




 ふいに聞こえてきた澄んだ声に、そっと隣を盗み見る。





 知らない声。





 だけど、なぜか耳馴染みの良い声だった。








 ゆっくりと目を向けた先には、ずっと考えていた先輩がいた。





 最初は先輩のことを考えすぎて見えた脳のバグだと思っていた。けれども、彼は私をしっかりと見据えていた。





 「え、先輩⋯⋯?」





 なんて声に出すはずじゃなかった言葉が漏れて、思わず自分の口に勢いよく手をあてた。





 瞬間、頬が熱くなる。





 今日も前髪に隠された奥で、先輩は首を傾げた。






 そっちから話しかけてきたくせに、不思議そうに首を捻ってみせる彼はなんだかズルかった。