「うわ、あぶな。やめてよ、列車事故とか」
そっと腕を引いてくれたやさしいサクに注意されても、私の目は彼から離れない。
いや、離してしまうのがもったいなく感じられた。
意図せず、私と向かい合う形になってしまったサラリーマンが気まずそうに目を逸らしていたっけ。
だけど、そんなこと気にしていられなかった。彼との間に立ちはだかる、たった六人分の壁だけが、どうしようもなくもどかしくて。きっと彼は、私が今から六人分の壁を傘でなぎ払ったとしても顔を上げないんだろうな。なんてバカな妄想ばっかりが脳内で捗っていった。
どうして、目を離せないんだろう。
名前はおろか、学年もクラスさえ知らない私は、彼からしたら他人だし。私からしても、他人なのに。
その答えを、この時の私はわからなかった。
だけど、今ならわかるよ。
そのどうしようもなく押し寄せてきては、決して引かない衝動のこと。



