恋に落ちるだとか、降ってくるものだとかいろいろ言うものだけど。





 ちがった。恋って、息が止まりそうになるほどの衝撃とともにやってくるものなんだね。





 そのことを知ったのは、幼馴染のサクと遅刻をギリギリ免れられる時間の電車を待っていたある朝のことだった。





 いつものように欠伸を溢しながら、乾いた傘を持つのがすこしだるいなと感じる梅雨の日。地下にあるせいで過剰な湿気に包まれたホームに降り立つやいなや、





 「あーあ、最悪。せっかく今日は上手に出来たのに、前髪崩れたんだけど」






 なんて上目遣いで前髪を確認しながら、どこかの女子高生みたいな文句を垂れたサクを笑っていたんだっけ。






 それからお行儀悪く二人してホームドアに寄りかかって、ポケットに入っていたいちごみるく味の飴玉を口に放り込んで、朝からバカ笑いしていた記憶がある。






 サクの緩んだ首元のネクタイと、私の短く折ったスカートのせいか、それなりに混んでいるホームでも私たちの周りには比較的に人が少なくてほんのりと得した気分になっていたのもぼんやりと憶えている。




 「梅雨だから、仕方ないんじゃない」





 8号車の一番前の扉。いつもなんとなくエスカレーターから降りてすぐだから、と意味もなく寄りかかっていたホームドア。彼の乱れた前髪をスマホで撮って、





 「どう、カッコ良く撮れたと思わない?」





 なんて見せれば、





 「うーん、前髪のせいでそうでもない」






 サクは首を振りながら、勝手にインカメラを起動して前髪を直し始めた。






 10分おきにでも等間隔に電車が来ればマシな片田舎。
 長かった待ち時間も、ようやく前々駅から電車が出たことを知らせる電光掲示板によって終わろうとしていた。