どうか、先輩だけは幸せにならないで








 「じゃあね、きみのこと好きじゃなかったよ」







 最終的に、煙草をふかした先輩に裏切られるとしても。騙されても、泣かされたっていい。いつの間にか憧れが違う気持ちに変わって、先輩が振り向いてくれるまで追いかけてしまっていた。






 いつからだろう。
 先輩の振り返らないやさしさに物足りなさを感じてしまったのは。





 いつからだろう。
 先輩の背中を追いかけるだけじゃ、満足できなくなってしまったのは。






 でも、好きになっちゃったんだもん。
 憧れているだけじゃ、好きの対価は手に入らない。






 好きじゃなければ⋯⋯
 憧れているだけで満足できていれば、対価なんて求めなかったのにね。





 しょうがないじゃん、とか言って。後輩だけじゃ足りなくちゃった、とは口に出していない分、まだわたしは欲張りじゃないでしょ。いつか振り返ってもらえる、の『いつか』に全てを懸けているだけ。






 その癖、





 先輩に振り向かれたら飽きちゃうんでしょ。
 わたしね、ちゃんと心のどこかで知ってるよ。






 ねえ、先輩。
 わたし、わがままでしょう。







 だから、最後のお願い。
 どうか、先輩だけは幸せになんてならないで。