「このビー玉なら、取れますか?」






 「よく覚えていたね。ビー玉は青くないと取れない、なんて」






 肩に回されていた腕が頭の上にきて、小さなこどもをあやすようにやさしく3回撫でられた。






 「へぇ。髪、柔らかかったんだね」






 先輩も染める前は黒髪が柔らかそうで中々好きでしたよ。とは言わずに、ビー玉を眺める。






 もうあの頃を求めて、青を嫌うのはやめた。壊れそうだった先輩への想いの息がしやすくなったからか、ほんの少しだけ素直になれたような気がするのは気のせいか。






 「ビー玉はコツさえ知っていれば、案外かんたんにとれるものなんだよ」






 先輩が瓶の中に細く長い指を突っ込むと、スルリとビー玉が瓶の中から出てきた。






 あげる、と手のひらに落とされたビー玉はしっとりと濡れていて、冷たかった。






 「ありがとうございます。あの、ひとつだけ聞いてもいいですか?」






 ずっと聞いてみたかった、先輩がラムネを飲まなくなった理由。






 「あ、ラムネを飲まなくなったわけ? それはね、眩しくなっちゃったから、かな」





 「ちょっとよくわからないです」





 「やっぱり、きみは冷たいね」







 そうですか? と悪戯っぽく目を細めて、首を傾げてみせる。
 それから、ビー玉にゆっくりと視線を落とす。






 手の中でもビー玉はちゃんと青かった。
 ビー玉に先輩の髪の毛が反射して青く光っている。







 静かな渋谷に二人、そっとビー玉越しに微笑み合った。