「恋に囚われ続けていると波形が乱れて、波形を生み出す二人が壊れてしまうんだ。だから、壊れる前に一旦フラットにして恋を殺さなくちゃいけない」






 恋を殺さなきゃ、恋に殺されちゃうからね。と続けた先輩の横顔に落ちた影が眩しかった。






 太陽なんて見えないのに。あの頃もずっと眩しかった。






 青色じゃなかった先輩が好きだった頃。今も黒色の柔らかい髪の毛が、ラムネを飲むと大きく上下する喉仏が好きだった。






 「壊れちゃう前に、終わらせよう。僕らの波形はもう限界だよ」






 先輩が静かに言った。早鐘を打ち始めた心臓の音に気が付かれないように、あおったラムネは随分とぬるくなってしまっていた。






 「きみは、東京にいる僕は嫌い?」






 嫌い。と答えたら、きっと先輩は『きみはやっぱり冷たいね』って目を細めるんでしょ。






 青色の髪の毛をした先輩も、タピオカを口にする先輩も、東京に慣れてしまった先輩も、嫌い。






 わたしが好きなのはあの頃の先輩だって、





 言おうとして止めた。いや、言えなかった。