1年越しに、なんて言われても先輩と渋谷に来たのは初めてで、思いつく場所もない。
引かれるがまま少しだけ歩くと、古びた自動販売機の前で歩みを止めた先輩。
一本前の裏道よりも影が濃く、そっと見上げた先輩の髪色は青黒く見えた。
先輩の隣から覗いた自動販売機は通常のものよりも背が低く、瓶ラムネが五本一列に並んでいるだけだった。
「飲むでしょ?」
「先輩も飲むなら、飲みます」
あの日以来、一度もラムネを口にしていなかった先輩の顔を伺う。包まれているだけだった手にそっと力を入れて、握り返してみる。すぐに離されてしまった手。
あたたかい温度と軽く握った手の形を残して去っていった先輩の手が、錆びついた貨幣投入口に100円玉を二枚滑り込ませた。
ボタンを押し、取り出し口に落ちてきたラムネを拾い上げると。一本差し出され、おずおずと受け取る。
キンキンに冷えたラムネが手のひらに残っていた先輩の熱を奪っていった。



