「まさか、きみが僕と同じ大学に来るなんて思ってなかった」
行きたいところがないなら、追いかけてきなよ。
なんて屋上の前でラムネをあおっていたのは先輩だったじゃないですか。そんな言葉を飲み込んでゆっくりと口を開く。
「別に、先輩を追いかけてきたわけじゃないですよ」
実際、わたしが追いかけていた先輩はもういないし、柔らかな黒髪は見る影もない。だから間違ってなんかいない。
「へえ、相も変わらず冷たいね」
わざとらしく寂しそうな声色を使ってみせるところは変わっていないのに。
先輩は、忘れちゃったんですか? と聞くのは野暮な気がして。
先輩のせいですよ。と言葉にしない分、きっちりと背中を睨みつけていると、視線を感じたのか先輩が振り返る。
「大学でもきみが後輩か。なんだかくすぐったいね」
その瞳はやさしく細められていた。厄介なやさしさに気付かない振りをして、そうですか? と声に出さずに首を傾げていると、ふいに先輩が顔を近づけてくる。



