「もしかして、はぐれてた?」






 「はぐれてなんか、ないです」







 無事に先輩の背中に追いついて、なにごともなかったかのようにスクランブル交差点を渡り終えたのに。







 わたしを振り返った先輩の三日月形に細められた瞳には、お見通しだ。なんて言われているみたいだった。






 フッと鼻から軽く息を吐き出すような笑い方をするところは変わっていなくて、少しだけ安心したのも束の間。







 背後から歩いてきた人と勢い良くぶつかってしまい、前方によろける。急いで謝ろうと振り返っても、もうそこには誰もいなかった。







 渋谷の街は、想像以上に人が多い。






 見かねたのか、先輩が






 「手でも繋いでおく?」






 なんて、いたずらっぽく口に出して首を傾げれば、青色の髪の毛が波打つように揺れる。






 遠慮がちに差し出された先輩の手は掴まずに、ほんの少しだけ先にある袖を掴んだ。