「きみも、ぼくから離れていくのか?」
父の首がカクンと音をたてて傾けられる。こちらに手を伸ばして、1歩また1歩と近付いてきては怒鳴ったり、泣いたり、笑ったりしてきた。
「……にげなきゃ」
玄関の中をなんとか後ずさりして後ろ手でドアノブを掴む。けれど、回らなかった。なにも考えずに鍵をしめてしまった自分の愚かさに今更気が付いても、もう遅い。
「逃さないよ」
……父の手がわたしの首に巻き付く。大きく、太い指には抗えない。何度目、だっけ。親指が喉元に食い込んで、嘔吐く。何回、こうやって父の手にかけられたんだっけ。
ねえ、後輩。また明日ね。なんて、小さな約束さえ叶えてあげられなくてごめんね。



