負けても笑っていた先輩が唯一隠し通したかった奥底を見てしまったような罪悪感で、





「⋯⋯わたし、先輩がバドをしている姿が一番好きでした。フォームが綺麗で、見ていて気持ちんです。⋯⋯だから、わたし⋯⋯その、先輩とバドが出来て楽しかったんです。だから⋯⋯」






 誰かに言われたわけでもないのに口の中で必死に弁明する。先輩に聞こえているのかもわからない声で、慰めにも、なににもならない言葉を並べ立てていた。





 声が聞こえてしまったのか、ふいに顔を上げた先輩。濡れた瞳とまつげは、相変わらず弧を描いていて。タオルで雑に顔を拭うと先輩は嗚咽を飲み込みながら





「ありがとうね」





 と必死に作ったのであろう笑顔を残して、立ち上がる。そのまま私を振り返ることなく、先輩の背中が歓声の上がる体育館の中に消えていく。




 ただ、眺めることしか出来なかった。





 さようならも、ごめんなさいも、声に出せずに消えた言葉は先輩に届かない。言うはずだった「ありがとうございました」も言えずじまい。





 蝉の鳴き声がうるさい外に立ち尽くしたまま。力の入りすぎた手の中で、すっかりぬるくなってしまったスポーツドリンクが入ったペットボトルが音をたてて歪んだ。





 まだ信じたくなかった。




 信じられなかった。





 明日から先輩のいない夏がはじまる、なんて。