男子シングルストーナメントの最終試合が始まった第一コートに背を向けて、体育館の重たい扉を開き外に出た。一気に騒がしさと燃えるような熱気から解放される。体に纏わりついて離れない心地悪さのある室内に比べれば、幾分か過ごしやすい蒸し暑さに包まれ、深く吸った息。





 ひと時の休憩に、とすぐ脇にある自動販売機に向かい、試合後にすっかり見失ってしまった先輩のためにスポーツドリンクを買う。改めて、彼にお礼と労いを言う口実が欲しかった。自販機から冷えたペットボトルを手に取れば、水分が手のひらの熱を冷ましていく。





 一度くらい先輩の笑顔が見たかった。

 なんて、ただの後輩である私に出来ることはないのに。





 用事がすみ体育館の中に戻ろうと扉を振り返った私の目に、扉のすぐ脇の壁に背をつけて膝を抱えた先輩がうつった。ちょうど探していた彼は、まともに汗を拭いていないのか、膝に埋められた顔を覆う髪の先から滴り落ちる水は雨粒のようで。余計なお世話だとわかっていても、気付かれないようにそっと近寄ってみる。