「トゥエンティツー、トゥエンティ。ゲームセット」






 主審の声にラケットを胸の前で抱えた先輩がネット越しに相手と握手しているのを見て、最後の点数をスコアシートに丁寧に書き込んだ。最後の数字にせめてもの想いをのせて。





 一度、まだ座ったままの私を振り返った先輩は目を細めて笑っていた。もうコートの中でポーカーフェイスを貫かなくても良くなってしまった先輩の顔を見るのが苦しくて目を逸らそうとしても、逸らせなかった。





 丁寧にお辞儀をしてコートから出てきた先輩に駆け寄ってタオルとスコアシートを手渡す。




 「お疲れ様です」




 と声をかけると




 「これまでありがとうね」




 とタオルを受け取り、足早に私の横を抜けていった先輩。





 三年間、一度も一回戦を突破出来なかった先輩の背中を追いかける。





 かける言葉も思いつかないままの私を振り返った彼が眉を下げて





 「ごめんね、また腹壊しちゃったかも」





 と笑って背中を向けられてしまった。追いかけることなんて出来なかった。背後で対戦相手が賞賛される声と割れんばかりの拍手を聞きながら、私はただコートの脇に立ち尽くしていた。ぼんやりと小さくなっていく背中に手を伸ばそうとしても、腕が思うように上がらなかった。