やがて、静かに着地していくシャトル。コートの角でラインを見ていた線審が両手を広げた。アウトの合図だった。あぁ、とため息が口元から漏れでてしまった。
「トゥエンティワン、トゥエンティ。サーバーマッチポイント」
相手がシャトルを拾いに行っている間に、淡々と点数を読み上げた主審。ほんの数分前まで、マッチポイントを持っていたのは先輩だったのに。今、マッチポイントを持っているサーバーは相手だ。この一点を絶対に逃してはいけない。なんて、私がわざわざ言って追い詰めずとも、先輩が一番よくわかっているはずだから。
また、なにも言えない。スコアシートに点数を書き込む指先が震える。悔しくて歯がゆくて歪んでしまった数字。
そっと見上げた先の彼は険しい顔をしている。コートの中で崩れかけた自慢のポーカーフェイス。切羽詰まった気迫を感じさせる荒い呼吸を何度も深呼吸をして整えた先輩。
表情がその顔から消えていく。ほんの少し安心した。頑張ってください。と祈る事しか出来ない私。
当事者以外は試合において無力だ。頑張ってほしいけど、頑張りすぎて先輩自身が潰れてしまわないか心配になる。「切り替えて」と真上の観客席から誰かの声がした。



