コートの中、ネットの前で呆然と立ち尽くす先輩。一度、自分のラケットと現実を見つめ直してから、ゆっくりと足元に落ちたシャトルを拾う。焦ったのか、先輩はいつものタイミングでラケットを振れていなかった。相手のコートに軽くシャトルを打ち渡し終えたラケットは、シャトルを上手く捉えられなかったことを悔やんでいるのか、ほんの少し震えていた。






 それでも、先輩は感情を表情に出さず、肩に額を押し付けて汗を拭うと力強く顔を上げた。汗で濡れて束になった前髪も気にせずに、ただ真っすぐと相手を見据える先輩の表情は相変わらず読めない。





 「頑張ってください」なんて無責任にただ応援する事しか出来ない歯がゆさを吐き出してしまう前に「ドンマイです」と何層もの声が真上から降ってきて、ゆっくりと息を吐いた。私だけ、なにも言えないでいた。




 「トゥエンティ、オール」





 主審の淡々とした声が耳に入り、小さくため息を吐く。先輩と相手が嫌なタイミングで同点になってしまったことを知った。




 「ここから先は泥沼だよ」




 とスコアシートの書き方を教えてくれた日の先輩が言っていたことを思い出す。




 「バドミントンの試合では基本的に21点先取で勝ちなんだけど、20点で同点になった場合だけデュースが行われるんだ。もし、そうなったら2点差で勝つか、30点を先取するまで終わらないんだ。いわゆる延長戦だよ。辛いね」




 とかクスクス笑っていたのに。




 今はコートに立つ先輩自身がデュースにもつれこんでしまっていた。吐く息は荒く、肩を大きく上下させて苦しそうに息をする先輩は体力面で圧倒的に不利。なんて、この試合を見ている誰もがそう思っても、私だけは知っていた。