相手がバックステップを踏み、シャトルの下に入り込みラケットを大きく振る。途端、シャトルは高い位置のまま軌道を変え、床と平行に先輩のいるコートへ飛んできた。一瞬、対戦相手であることも忘れて、魅入ってしまうような綺麗なクリアだった。
甲高く短い音が響いて、先輩に目を向けると。それまでコートの真ん中に立っていた先輩が右足をすばやく後ろに引きながら胸を大きくそらし、ラケットをかまえ直していた。上を仰ぎ見る彼の首筋に見惚れそうになって、慌てて瞬きをして気をそらす。
反動で左足が軽く浮き上がったのも気にせずに、左手を斜め上に伸ばしバランスをとる。飛んでくるシャトルに視線をしっかりと固定して、右手に持ったラケットを背中の後ろですばやく回しシャトルのコルクがラケットの中心に当たるよう狙いを定めて振り下ろした。
体にバネでもあるかのように伸縮した腕によって、小さなシャトルに大きな力が加わる。わずか一秒にも満たない間に、パシュッと短い音をたてて先輩のラケットから押し出されたシャトルが相手のコートめがけて飛んでいった。そのままシャトルを目で追えば⋯⋯弾丸のように早く、高さを保ったまま相手のコートの奥へ奥へと吸い込まれていく。すごい。瞬きをしている間に勝負がついてしまいそうなほど、早く先輩のシャトルは飛んでいく。風のない体育館の中で意志を持っているかのように。
前に返ってくるはずと踏んでいた相手が一歩遅れて、思うように下がりきれないまま、それでもシャトルに食らいつく。バランスの崩れた身体を支えきれずにふらついた足取り。
ネットから少しだけ浮きぎみに弱々しく前方に返ってきたシャトル。大きな一歩を踏み出した先輩のシューズが激しく床と擦れる。悲鳴に近い甲高い音が響いて、彼のラケットの中心にシャトルが入ったように見えた。いける、叩き込めば勝てる。そんな場面。
そう思ったのも束の間、すぐに小さな歓声が上がったのは相手のコート側の応援席からだった。



