……あーあ、はやく退院して。まだきっと先輩の香りがするマルセル・シュオッブ全集に顔を埋めたい。
あと、あのSNSの写真を印刷しちゃおう。
それで、いつまでも抱きしめてもらうの、先輩に一生。
それか、いっそ燃やしてしまおうか。それで本当にわたしたち以外の世界なんて滅ぼしちゃいましょうか。
ああ、それか黒魔術でも使って生き返らせます? ううん、違う先輩は死んでませんもんね。どこにいるんですか、生きているなら早くお見舞いに来てくださいよ。
……あれ、違う。鮮血……わたしの頭を守る大きな手。
ねえ、先輩。知ってました? わたしあんなに大口叩いていたのに一番大切なはずの『好き』って言葉だけ言い忘れてしまったんです。
馬鹿ですよね、とんだ阿呆ですよね。なんて、どこかで生きているはずの先輩に語りかける。
どれも先輩が生きていればぜんぶ解決することなはずなのに……なんて言っても返事はない。先輩、先輩……。
「……アハハッ」
でも、本当はわたし知っているんですよ。先輩が隣のベッドにも、学校にも、この世界のどこにもいないことを。だってわたしは聡くて可愛くない偉い子だから。
「……なんで一緒に死なせてくれなかったんですか?」
2人で幸せになろうって言ったじゃないですか。
先輩。そう頭の中で呼ぶたびに、彼の頭から飛び散った血液がフラッシュバックして、喉の奥から酸っぱいものが込み上げてきて、嘔吐く。



