目を覚ます前にツンと鼻にくる消毒液の匂いを感じ取って、自分が上手く死ねなかったことを察した。






 毎日飽きもせずアルコール液の香りを嗅いでいた先輩に「そんなに病院の匂いが好きなんですか?」と聞いていたのは、他でもないわたし自身なのだから。忘れられるわけがなかったその香りがなにを意味するのかを。







 だけどきっとわたしが生きているのなら、先輩だって同じように生きているはずだ。意外と死のうとした時に限って、人間は上手く死ねないものなのかもしれない。








 先輩に死ねと言われたから死のうとしたものの、もう一度先輩と新たな人生を作り直してみるのも素敵だ。たぶんこれまでの試練は全て心優しい神さまが先輩とわたしの仲をより強固にするために仕組んだことだったんだきっと。






 この世でわたしひとりだけが先輩の前世の恋人面をできるようになるのだ。そう考えると、わたしたちが死ねなかったのは不幸なことではないような気がした。







 そんなことを思っていたら、今こうして目を瞑ったままでいることが焦れったく感じられて、勢いをつけて重たい瞼を押し上げてみた。








 あわよくば、先に起きていた先輩に「おはよう。死に損なっちゃったね、二人とも」なんて隣のベッドから挨拶をされたらいいのに。そんな一抹の期待を抱いていたわたしの目に映ったのは味気ない白い天井だった。