「偉いから、最期は手を繋いで堕ちてあげるね」






「先輩って意外と、甘やかし上手ですよね」







 そうかな。と笑った声はもう、ちゃんとした言葉にはなっていなかったけれど。わたしだから、先輩ならそう言ったんだなってわかった。






 だから、彼の腕を肩に担ぎ直して、わたしたちはベランダにある柵の近くまでゆっくりと歩いた。薄暗闇に浮かぶ先輩の顔を何度も確認しながら、一歩一歩確実に進んだ。







 道中、彼のトレンチコートの内側にしまわれていたすべての煙草と不採用通知を引っ張り出して、ライターで火をつけ校舎の窓へ投げつけておいた。






 それから振り返らずに、柵の前まで歩く。先輩の腰までしかないベランダの柵は、死ぬと覚悟を決めた人間が越えるのにはあまりにも低すぎるように感じた。一気に肩にのせていた先輩の体重が重たくなって、潮時を知る。







「それじゃあ、行きましょうか。燃え盛る世界をわたしたち2人だけで、沈みかけの小舟にでも乗って逃げ出しましょう。それで……ささっと滅んじゃえばいいんですよ、先輩のいない世界なんて」








 先輩はわたしの言葉に『そうだね』と頷いたような気がしたけれど、結局確認するよりも繋いでいた手が勢いよく下に引っ張られる方が早かった。重力に逆らわずに目を閉じた。手には温かい先輩のぬくもりを感じて。