「先輩がもう一回、死ねって命令するならわたしは死にます」






 ほら、やっぱり先輩はなにも言わない。もともと静かな喫煙所を包む深い静寂。







「だけど、先輩はわたしがいなくなって寂しくないんですか? ダイレクトメッセージを返してくれる友人や、人肌恋しくて呼び出してすぐに駆けつけてくれるひとはいますか? 電話で助けを求めて、わたしみたいに私生活を投げ出してまで走ってきてくれるひとはいますか? いるのならこのまま死んでもいいです。だって、ただの自惚れだったわたしの出る幕ではないでしょう?」






「きみってたまに聡くて、本当に可愛くない」






 大きく吐き出されたため息。その最後には、わたしと同じように呆れたように鼻の奥から漏れた笑い声がつけられていて。その答えを、わたしは勝手に肯定と捉えた。





 きっともう、中毒症状で放っておいても先輩は長くは持たないように見える。視界の端で震えている手足が痛々しかった。






「じゃあ、最後に全部盛大に燃やしちゃいましょうか」






「ぜんぶって、なにを?」






「世界のぜんぶです。先輩の気に入らないものは、ぜんぶわたしが燃やしてあげますよ」







「いいの? 殺人より放火のほうが……」







「いいですよ。どうせ、わたしたちこれから死にますし。町でも大学でも火の海にしてやりましょ」







「最期に、ってことか。それよりちゃんと読んでいたんだね、あの小説」







 偉いですか? と彼の背中を抱きしめながら問えば、先輩の震えたままの腕がそっとわたしの背中をかるく叩いてきた。気持ちだけでも抱きしめられた気になって、歪んだ笑みが漏れる。先輩のためならわたしはわたしたちだけの世界を滅ぼすことも、大地を炎上させることだって、そこから2人だけで逃げるなんてこともなんでも出来ますよ。