朦朧とした意識の中でも、そんなことを言うんだと呆れを通り越して、感心した。胸の奥がほのかに温かくなって、この感覚が愛おしいなのかな。なんて肩にいれていた腕を背中まで伸ばしてみる。
先輩の背中は思ったよりも広く感じた。太平洋とまではいかないけれど、瀬戸内海くらいはありそう。やっぱりずっと外いたせいで温かくはないけれど、彼の体温ははっきりと感じられた。
「うーん、そうですね。ひとりで死ぬのは寂しいし、先輩だけ死んじゃうのは哀しいので。わたしと一緒に先輩が死んでくれるならいいですよ」
「⋯⋯ばかじゃないの。本当に僕が好きなら、僕のためにきみが死ねって言ってんのに」
「そもそも愛の計り方が面倒くさいですよね、先輩は。一緒に死んでみたら死んだあとも先輩のそばにいられそうですし、永遠に先輩を愛してるのと同義になるのって、とっても素敵じゃないですか?」
「一緒に死ぬって、なにそれ。そうゆうことが聞きたいわけじゃないんだけど。僕のことが好きなら今すぐ目の前で死んでみせてよ。それが愛でしょ。僕への好きとか愛を証明しろって言ってんの」
たまに苦しげに咳をしたり、肩を上下させて呼吸する先輩の背中をさすってあげても、彼の口から飛び出すのは鋭利な言葉ばかりでため息を吐く。



