十七時。怒涛の連絡にバイト中一度も開いていないはずのスマートフォンの充電が十パーセント近く減っていた。
既読マークをつけただけで、個人的に教えてもらった携帯の番号が初めて液晶画面に表示され、嬉しさと不安定なメッセージに込められた負のエネルギーに感情が丸められたティッシュみたいに汚く、ぐしゃぐしゃになった。
それでも、なんとか気持ちを落ち着けて電話に出る。
「きみさ、煙草の味って知っている?」
もしもし、もなく先輩はそう言った。
「なんですか急に、電話切りますよ。そもそも煙の味なんて吸わないから知りませんよ」
「ちがう。本当に食べている、ムシャムシャって。⋯⋯あぁ、思っていたよりも苦いね」
なんか吐き気がするなあ。なんて言葉に続けて、ウッと低く嘔吐く音が聞こえてきて、気が付いたら走り出していた。先輩と一緒に紙飛行機を作ってから、まだ一ヶ月も経っていない日のことだった。
バイト先から大学までは、徒歩二十分。走れば、遅くとも十分で学校に着ける。幸い今日は厚底のスニーカーだ。ヒールに比べれば、走れないこともない。とりあえず、目の前で点滅していた青信号を走り抜けて、スマートフォンで『煙草 食べた 対処』と調べながら坂道をのぼる。その中で目に入った情報を電話の向こう側に伝えた。



