「先輩。紙飛行機を飛ばすのなんて、今更流行らないと思いますよ」






「なら、流行りに乗れば僕のもとに採用通知が来ると思う?」






「⋯⋯来ないですね」






 今度は機嫌を損ねてしまわないように。細心の注意を払って、先輩の望む後輩が答えるのであろう答えを口に出した。







「正解。よくわかっているね、お利口さん」





 またそうやって、頭を撫でる。今度の撫で方は、完全に子ども扱いで気に喰わない。







「地球を汚すのは流行らないって前に教えてくれたのは、先輩じゃないですか」





「あぁ。うるさい、うるさい。じゃあ、紙飛行機を飛ばして資源ごみにするのはやめよ。かわりにきみが僕の煙草に火をつけてよ」






 わたしの身長にあわせてかがめられた腰の分だけ、普段わたしが背伸びしていることを思い出す。ただでさえ薄暗いこの場所は、夜が来るのが早い。互いの顔や手元が見えにくい中、手渡されたライターで灯りをともした。







 軽く持っていただけなのに場所が悪かったのか、親指の腹が焼かれて熱い。それでもなんとか、先輩の口元に咥えられた煙草の先に火をつけた。ぼうっと薄暗闇に浮かんだ先輩の橙色に染まった顔は、あまり嬉しそうには見えなかった。これまでも先輩に横柄な態度を取られることはあっても、絶対にわたしに煙草やお酒を強要ないところが好きだった。だけれど、そこがわたしを不安にさせる。