どうか、先輩だけは幸せにならないで














「きみって、強情。全然引いてくれないし、うるさいし」







 そうして毎日接点を作りに行って、一か月と少し経った頃。『マルセル・シュオッブ全集』が愛読書だということを知った。全九三三ページの本を貸し付けて『これをぜんぶ読まないと僕を理解できないよ』とか言外に読めと圧をかけてきたくせに。実はその中に収録された世紀末文学の短編『大地炎上』が好きなだけなところとか、本当に勝手だなと思った。





 あ、そうだ。まだそのマルセル・シュオッブの本を先輩に返してないんだった。






 借りパクは万死に値すると貸してもらった時に聞いた気がするし、思い出せてよかった。危うく命を失うところだった、次会う時までに返さなくちゃ。