これまでは勝手に。
三月に取り残された先輩のブレザーだけは、いつまでもシトラスの香りがしていてくれるように感じていた。
けれど、今のわたしに残されたのは、白紙のままの進路希望調査と先輩のいない高校生活だけで。どこを探しても先輩がいない四月に、いつかシトラスの残り香さえも溶けてしまうのならば、置いていかないでとあの時必死になって背中に手を伸ばせば良かった。
素直に好きだと言っていたら、先輩はわたしを置いていかなかったかもしれない。
なんて悔やんだってわたしにはもうなにも出来ないことを、今更どうしようもなく理解させられる。
窓の外に目をやれば、あの日たしかに先輩の胸に咲いていたはずの桜は散ってしまっていた。



