「そっちこそ、就活うまくいってない先輩を煽って遊ぶのはたのしい?」
「あ、一応やっていたんですね」
「⋯⋯やっぱりきみ、僕のために死んでよ」
見下ろしてくる視線が心なしか冷たい。煙草が先輩の薄い唇から離れて、その先がわたしの瞳に向いた。近くで見ると意外と煙は白色とは言い難いほど濁っているんだな。とか危機感よりも先に感想が出てくるところが好きなのか、わたしの表情を確かめるよう覗いてきた先輩は満足げな笑みを浮かべていた。
その間にも本来空へ昇るはずだった煙がわたしの瞳を刺激してきて、正直とても鬱陶しい。潤いが売りのコンタクトをつけていたからいいものの、ほんのり沁みたのか鈍い痛みに襲われて瞬きをしながら「いや、早く煙草どけてもらえません?」と睨みつけても無視された。
「で、今すぐここから落ちて死ぬ?」
視界の端で、わたしがここへ着く前から彼が作っていたのであろう紙飛行機がゆらゆらと揺れていて、つい先ほどまで自分の頬を傷つけていたものの正体を知った。
飛行機の翼の部分に不自然に印刷された『○○株式会社』や『今後より一層ご活躍される事をお祈り申し上げます』の文字。それだけで、先輩が一体なんの紙で飛行機を折ったのかがわかってしまった。と同時に、わたしがどれだけ殺傷能力の高い地雷を踏んでしまったのかも、ようやくちゃんと理解することが出来た。



