「きみは僕のために死ねるよね」
「頭のネジ、探してきてあげましょうか?」
そこはさ、元気よく先輩のためなら死ねますって言うところでしょう。まったく、なんて文句を垂れた先輩に、これ見よがしに大きくため息を吐きだしてやった。
太陽に照らされた大学の日陰。北校舎の二階、大して日も当たらないベランダに作られた形ばかりの喫煙所で、先輩は今日もぷかぷかと煙を燻らせていた。
自身の腰あたりまでしかない柵に肘をついて、健康に悪い煙を吐いては吸うのを繰り返している先輩の隣に立てば、なぜか鼻で笑われた。スマートフォンに『はやく来て』なんて通知が来ていたから、せっかく走ってきたというのに、まったく人使いが荒い。
「あーあ。きみにまで見捨てられたら、どうやって生きていけばいいの」
「知りません。勝手に生きてください」
「釣れないな、可愛くない」
うるさいです。と返せば、あからさまに無視された。お気持ち程度に染められた先輩のまだらなブラウンヘアが風に吹かれて揺れる。
くるくるふわふわと纏まりなくワックスで遊ばせている髪からは、就活真っ只中の四年生が本来醸し出しているはずの清潔感は一切感じられなかった。



