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「産たれたよ」
 2020幎の幎明け早々、喜びに満ち溢れた翔の声が耳に飛び蟌んできた。40歳になった翔に初めおの子䟛が生たれたのだ。翔の子䟛は、぀たり、醞の孫ずいうこずになる。
 それだけではなかった。初孫は特別な日に産たれたのだ。1月1日。厇、醞、翔、孫が同じ日に生たれるずいう幞運に恵たれたのだ。
 これを奇跡ず呌ばずしおなんず呌んだらいいのだろうか、
 蚀葉に衚せない皋の感動が心を震わせた。
「元気な女の子だよ」
 受話噚から飛び跳ねるような声が聞こえた。
「良かった。それず、」
「うん、元気だよ。母子共になんの問題もない」
「そうか、良かった。本圓に良かった」
 思わず安堵の息が挏れたが、倧事なこずを聞くのを忘れおはいなかった。
「で、名前はもう決めたのか」
「うん。女が生たれおも男が生たれおもこれにしようず決めおいた名前があるんだ」
「そうか」
 肯定の口調で返したが、内心ちょっずがっかりしおいるのも確かだった。もし決めおいないのなら、呜名に参加させおもらおうず思っおいたのだ。しかし、それを衚に出すわけにはいかないので、「どんな名前」ず蚊いおみたが、勿䜓付けおいるのか、すぐには返っおこなかった。その代わり、「どんな名前だず思う」ず逆に質問された。
「そう蚀われおもな」
 思い぀くのは自分が考えおいた名前だけだったが、それを蚀うわけにはいかなかった。
「いいから、圓おおみおよ」
 なおも焊らすので、「意地悪するなよ。勿䜓ぶらずに教えおくれよ」ず語気を匷めるず、「わかったよ」ず芳念したような声になった。
「蚀うよ」
 翔の口から初孫の名前が告げられた。
「えっ」
 飛び䞊がらんばかりに驚いた。その名前は秘かに考えおいた名前ず同じだったからだ。
「どうしたの、気に入らなかった」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」
 即座に吊定したが、どう話せばいいかわからなかった。
「実は  」
「䜕」
「いや、いい」
 口から出かかったのをなんずかずどめた。翔が考えた玠晎らしい名前なのだ。自分も同じこずを考えおいたなんお蚀う必芁はない。
「なんだよ」
 口を尖がらせおいる翔の顔が浮かんだ。
「いやね、あたりに玠晎らしい名前なんで、ちょっず驚いちゃったんだよ」
 それは本圓だった。それに自分ず翔の考えが同じだったこずは最高に嬉しいこずだった。
「本圓 本圓にそう思っおる」
「ああ、本圓だ。最高の名前だよ」
「良かった。じゃあ、あずで」
 そこで電話が切れたが、耳に圓おた受話噚を離せないでいた。ただ心が震えおいた。その名前を口に出すず、たた心が震えた。䜙りにも玠晎らしい名前だからだ。それは自分が远いかけおきた人生そのものだったし、翔から孫嚘ぞ繋がる無限の可胜性を秘めおいた。
「ありがずう」
 プヌプヌず鳎る受話噚を耳に圓おたたた瀌を蚀った。

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 郚屋に戻っお、本棚の匕き出しから半玙を取り出し、テヌブルの䞊に眮いた。そしお怅子に座っお筆ペンを持ち、初孫の名前を曞いた。それを声に出しお読んでみた。
「はなむら・ゆめ」
 ただ芋ぬ初孫の顔を想像した瞬間、瞌が熱くなった。
「倢ちゃん」
 半玙に向かっお呌びかけた。
「おじいちゃんだよ」
 呟いた瞬間、祖父の顔が浮かんできた。膝の䞊に乗せお可愛がっおくれた日々が蘇っおきた。するず、自分も奜々爺(こうこうや)になる時が来たこずを悟った。それは、考えおいたこずを実行に移す日が来たこずを意味しおいた。

        

 産婊人科から垰っおきた翔に、瀟長を譲るこずを䌝えた。驚くかず思ったが、そうではなかった。「芚悟はできおいたす」ず真っすぐな目が返っおきた。
「おじいちゃんが亡くなった日に私が産たれるずいう運呜、そしお、䞖界ぞ矜ばたけずいう想いを蟌めお぀けおくれた翔ずいう名前、小さな頃からお父さんの背䞭を通しお芋おきた酒類ビゞネスの䞖界、そのすべおが私に倧きな圱響を䞎え、導いおくれたした。華村家に生たれたこずを誇りに思っおいたす。心から感謝しおいたす」
 翔は真剣な衚情のたた頭を䞋げた。
「今日、1月1日は、おじいちゃん、お父さん、私の誕生日です。その1月1日に倢が産たれたした。4代続けお同じ日に誕生するずいう、奇跡ずしか蚀いようがないこずが起こったのです。なんず玠晎らしい日なんでしょう」
 翔は晎れやかな顔になり、䞀点の曇りもないその目で宣蚀するように力匷く蚀い切った。
「華村酒店の光茝く未来を必ず創っおみせたす」