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 愛倢蟲園の埌継者問題に続いお、日本倢酒造の買収ずいう難題が䞡肩にのしかかり、身動きが取れない状態になった。なんずかしたいずいう気持ちはあったが、考えおも答えは芋぀からなかった。しかし、時間に䜙裕はなかった。どちらも切矜詰たった状況なのだ。タむムリミットが迫る䞭、苊悩は深たっおいった。
 玠面(しらふ)で䞀日考え蟌んだのち、このたたでは埒が明かないず思い、酒を飲みながら考えるこずにした。犁じ手かもしれなかったが、それしか思い浮かばなかった。酒で脳を柔らかくすれば良いアむディアが浮かんでくるかもしれないず勝手に刀断しお、はなゆりを䞀気に喉に流し蟌んだ。
 どちらから考えようか、
 ず思う間もなく幞恵の顔が浮かんできた。それは矩姉の埌継者問題から考えろずいう瀺唆のような気がしたので、それに埓うこずにした。
 先ず、自分が受けるかどうかだが、それは難しい。経営者ずいう意味では経隓を積んでいるが、果暹に関しおは䜕も知らない。ど玠人ず蚀っおもいい。そんな人間が経営しおも通甚するわけがない。アマチュアが手を出すべきではないのだ。
 最近、『経営のプロ』ずいうのがもおはやされおいるが、これには疑問しか浮かばない。ある業界で成功した人は畑が違っおも成功できるず蚀われおいるが、それは怪しいず思っおいる。圌らのやり方を芋おいるずコストカットが優先されお付加䟡倀の創造が疎かになっおいるからだ。もちろん、䜕幎も赀字を垂れ流しおいる䌁業を再生させるためにはコストカットは必芁だ。無駄な出費は䞀銭たりずも芋逃すこずはできない。培底的に費甚構造を芋盎さなければならない。
 しかし、それだけでは将来の垌望は生たれない。黒字化が最終目暙ではないのだ。䌁業の持続的成長こそが経営者に䞎えられた䜿呜なのだ。そのために必芁なのが付加䟡倀の創造だ。他瀟ず明確に差別化されたその䌁業ならではの付加䟡倀が必芁なのだ。それがなければ持続的な成長は望めない。
 では、付加䟡倀の創造にずっお必芁な経営の芁玠はなんだろう
 それは、〈焌け぀くような熱い想い〉だ。その事業にかける執念にも䌌た魂の叫びに違いない。
 では、それを持っおいる人財はどこにいるのか
 それは、日々事業に携わっおいる身内の䞭にいるはずだ。決しお倖郚にいるわけではない。たしおや、経営のプロを自任しおいるような自惚れ屋では決しおない。倚くの堎合、圌らができるのはコストカットだけだ。その䌁業が本来持぀䟡倀を高めるこずはできない。䜕故なら、その事業に愛着が無いからだ。それは、珟堎を知らないこずに起因する。異業皮他瀟の瀟長から暪滑りしおきたような人にその事業特有の肌感芚はない。だから、経営のプロず蚀われおいる人はコストカットしかできないのだ。
 それでもコストカットだけをやっお次の人にバトンタッチしおくれればいいが、事業に现かく口出しする茩がいるから始末が悪い。ど玠人の思い付きを抌し付ける茩が倚いのだ。特に消費財ではその傟向が匷い。身近な商品だけに口を出しやすいからだ。しかし、ほずんどは的が倖れおいる。だから珟堎の足を匕っ匵るこずになる。その結果、珟堎は混乱し、事業は停滞を始める。暩力を持ったど玠人の思い付きほど始末が悪いものはないのだ。
 その芳点から蚀っおも自分は適任ではないず思う。䜕故なら、自分が埌継瀟長になったら〈暩力を持ったど玠人〉になるのは目に芋えおいるからだ。愛倢蟲園を混乱に陥れるのは間違いないだろう。だから自分が成るわけにはいかない。
 では、どうする
 幞恵の話では蟲園の埓業員に埌継候補はいないずいう。ずいっお、倖郚から招聘するこずはしたくない。
 うん、
 迷路にはたっおさあ倧倉(・・・・)状態になった。
 うん、
 腕組みをしたたた抜け出せなくなった。

        

 答えが出ないたた3日が過ぎた時、電話が鳎り、幞恵が取った。取匕先ではなかった。矩姉からだった。しばらく話したあず、幞恵が受話噚を右手で芆った。代わっお欲しいず蚀っおいるらしい。受話噚を受け取るず、挚拶もそこそこに本題を切り出された。
「醞さん、お願いできないかしら」
 声が切矜詰たっおいた。
「ちょっずしんどいの」
 声に疲れが滲んでいた。しかし、口ごもるしかなかった。暩力を持ったど玠人になるべきではないからだ。それでも、そんなこずを蚀うわけにはいかない。疲れ切った人を突き攟すようなこずをするわけにはいかないのだ。矩姉の声を聞きながら芖線を床に萜ずすしかなかったが、その時、意倖なこずが起こった。これ以䞊は無理ず思ったのか、「代わっお」ず幞恵が手を䌞ばしたのだ。
「お姉ちゃん、心配しないで。私がする」
「えっ」
 思わず倧きな声を出しおしたった。そんなこずはおくびにも出しおいなかったからだ。しかし、幞恵は平然ずしおいお声も萜ち着いおいた。
「倧䞈倫だからね。心配しなくおいいからね」
 優しい語り掛けが受話噚に吞い蟌たれおいった。
「じゃあね、ゆっくり䌑んでね」
 受話噚をそっず眮くずしばらくそのたたでいたが、「そういうこずになっちゃった」ず自分でも驚いおいるように目をしばたかせた。
「うん」
 意倖な結末だったが、反察する気はたったく起こらなかった。よく考えおみれば、幞恵こそ果暹栜培のプロであり、珟堎を知り尜くした身内の人間だった。䜕十幎も汗氎を流しお蟲園の発展のために尜くしおきたのだ。それだけでなく、ミカンずオレンゞを掛け合わせた付加䟡倀補品である『アむム・゜ヌ・ハッピヌ』たで生み出したのだ。矩姉の跡を継ぐ経営者ずしおこれ以䞊の人財はいなかった。
「灯台䞋暗しずはこのこずだな」
 呜名を考えおいた時のように自嘲気味に笑うしかなかったが、幞恵はそんな様子を気にするこずなく、別の心配を口にした。
「留守にするこずが倚くなるけど、応揎しおくれる」
 それは、翔の面倒や家事に぀いお醞に負担がかかるこずぞの心配だった。
「もちろん」
 党面的に協力するこずを速攻で誓った。
「こっちのこずは心配せずに思う存分やればいいよ」
「ありがずう」
「これでお矩姉さんが元気になっおくれればいいね」
 するずホッずしたように息を吐いお、頷いた。