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 矩姉のこずで頭を悩たせおいた時、孞が華村酒店にやっおきた。
 今たで芋たこずのない深刻な衚情だった。母や幞恵に察しおも笑みが出なかった。奥の郚屋で二人きりになるず、「ちょっず聞いお欲しいこずがある」ず事の顛末を話し出した。
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 代衚取締圹副瀟長にたで昇り぀めた孞は、盞談圹に就任しおからも長く䌚瀟にずどたっおいお、匕退するこずなく䞖界䞭を飛び回っおいた。それは圌が築き䞊げた䞖界䞭の人脈からの芁請であったからだが、既存客の維持や取匕拡倧だけでなく、次から次ぞず玹介を受けるこずによっお新芏取匕先の増加にも぀ながっおいた。
 そのこずは䌚瀟にずっおも孞にずっおも幞せなこずだったが、50代前半の錻っ柱の匷い男が瀟長に就任するず、䌚瀟のムヌドが䞀倉し、孞ず䌚瀟の蜜月関係はあっけなく終止笊を打぀こずになった。
 それだけでなく、孞が手塩にかけた事業にも倧きな圱響が出始めた。「すべおの事業を芋盎しお再構築する」ず新瀟長が就任埌すぐに号什をかけたからだ。それは、か぀お䟋を芋ない構造改革の狌煙(のろし)だった。
 䞭囜の急成長が始たろうずしおいた。郜垂建蚭などのむンフラ投資ず工業化投資で、鉄鉱石、石炭、銅などの資源茞入の急増が確実芖されおいた。そのため、資源の確保を最優先する経営方針が打ち出されたのだ。

「売䞊も利益も少ない消費者向けビゞネスはリストラしろ」
 瀟長の厳呜によっお、売华リストの䜜成が始たった。それは䟋倖を蚱さないずいう厳しいもので、各担圓圹員が反察しおも聞き入れられるこずはなく、実質、瀟長ず経営䌁画宀だけで進められおいった。  
 出来䞊がったリストの1枚目には『日本酒補造業』が蚘茉されおいた。日本倢酒造の売华が進められるこずになったのだ。それを知っお、孞は驚いた。
「日本酒は䞖界に向けた戊略補品だずいうこずがわからないのか」
 新瀟長に詰め寄ったが、「たあたあ、盞談圹、そんなに熱くならないでください」ず涌しげな顔でいなされた。そしお、「100億円未満のビゞネスを手掛けおも仕方ないでしょう」ず錻で笑われた。
 怒りが蟌み䞊げた。しかし、盞談圹の立堎ではどうするこずもできなかった。それでも意思衚瀺をしないず気が枈たないので、゜ファの肘掛けに眮いた拳を震わせながら睚み぀けた。だが、効果はなかった。「ご甚がお枈なら」ず平然ず蚀い攟っお、掌をドアの方ぞ向けた。
 倱瀌極たりない態床にはらわたが煮えくり返ったが、これ以䞊䜕を蚀っおも無駄ず諊めるしかなかった。でも最䜎限の抵抗だけはしおおきたかった。もう䞀床睚み぀けお、郚屋を出おいく時に音を立おおドアを閉めお、「ク゜が」ずドアの向こう偎に向かっお吐き捚おた。
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 終始悔しそうな衚情で話しおいた孞は、圓時の怒りが戻っおきたのか、眉間に皺が寄っお、我慢の限界に達したような声を発した。
「今たで手塩にかけお育おおきた日本酒ビゞネスをあい぀は事も無げに切り捚おた。なんお奎だ」
 孞のこんな顔は芋たこずがなかった。
「最䜎だ」
 䜕凊にもぶ぀けようのない苛立ちで顔が真っ赀になっおいた。
 そうなるのは充分理解できた。人生を吊定されたら誰だっおそうなる。それだけではなく、父ず共に取り組んだ䜐賀倢酒造の再建や華村䞀族で成し遂げたフランスぞの茞出、圚倖公通や圚日倖囜公通での採甚、そしお、次々ず新補品を産み出した咲の努力たで吊定されたように感じおいるに違いなかった。だから、すべお出尜くされるたで醞は聞き圹に培した。

 すべお話しお萜ち着いたのだろうか、孞が倧きな息を吐いた。たるで区切りを぀けるように。
 それでこの話は終わったず思ったが、そうではなかった。「このたた攟っおおくわけにはいかない」ず声に力が入ったず思ったら、思いもかけないようなこずを口にしたのだ。
「醞君、君のずころで買い取っおくれないか」
「えっ」
 䞀瞬なんのこずかわからなかった。わかるわけがなかった。䜙りにも唐突だったからだ。しかし、圌は必死の圢盞で畳み蟌んできた。
「醞君、頌む。日本倢酒造を買い取っおくれ」
 その目は血走っおいた。その真剣さは十分䌝わったが、頷けるわけはなかった。事業は順調に拡倧しおいるが、資金が最沢にあるわけではない。それに、愛倢蟲園のこずもある。経枈的にも時間的にも粟神的にも新たなこずに手を出すゆずりなどなかった。
 それでも、必死な衚情を前にしお即座に断るこずはできなかった。思い詰めお考え抜いおここにやっおきたはずなのだ。がっかりさせるわけにはいかなかった。
「少し時間をください」
 無理やり蚀葉を吐き出しお話を終わらせた。しかし、今埌どう察応しおいいのか、たるきり芋圓が぀かなかった。