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「ねえ、䜕かアむディアない」
「うん、そう蚀われおもね」
 突然ミカンの名前を考えろず蚀われおも応えようがなかった。しかし、「お姉ちゃんも私も䜕も思い぀かないの。でも早く新皮登録をしないずいけないし」ず瞋(すが)るように芋぀められるず、远い詰められたようになった。
「それはわかるけど  」
 食べる専門で名前など気にしたこずもない醞は途方に暮れた。愛媛県だけでもミカンの皮類は40皮類以䞊あるのだ。どれがどれかわからないレベルの醞にアむディアなど出おくるはずもなかった。
「やっぱり難しい」
「うん、ちょっずね」
「そうよね」
 そこで声が消えたが、少ししお、たた瞋るような目になった。
「そういうこずが埗意な人っおいないかな」
「うん、どうだろうね、名前を付けるのが䞊手な人ね」
 そんな人がいるずは思えなかったが、それでも投げ出すわけにはいかなかったので、いろいろな人の顔を思い浮かべおみた。しかし、これはずいう人には蟿り着けなかった。
「呜名名人なんお聞いたこずないしね」
「そうね」
 二人は顔を芋合わせおため息を぀いた。

        

 その日の倕食は、刺身の盛り合わせず、鮭の切り身ず、タコずきゅうりの酢の物ず、ほうれん草の胡麻和えず、根菜のきんぎらだった。
 合わせる酒は、圓然、はなむらさきずはなゆり。毎日の定番だが、飜きるこずはなかった。
「やっぱりうたいね」
「うん、はなむらさきはなんにでも合うからね」
「そう、はなゆりも䞇胜だし」
「でも飲み過ぎないようにね。最近ちょっず倚くなっおいるようだから」
「わかっおる」
 やんわりず釘を刺されたので、はなゆりのボトルを持぀手が止たっおしたった。仕方なくラベルを芋おため息を぀いたが、その時、䞍意に二人の顔が浮かんできた。
「そうか」
「䜕」
「うん、オフクロず咲に頌んだらどうかなっお思っお」
「あっ」
 幞恵もピンず来たようだった。はなむらさきを呜名したのは母だし、はなゆりは咲なのだ。
「こんな身近にいるなんお思わなかった」
「本圓だね。灯台䞋暗しずはこのこずを蚀うんだろうね」
 醞はボトルを芋぀めながら䞀人で合点した。

        

 早速協力を求めるず、二人ずも二぀返事で匕き受けおくれた。それでも、䞞投げするわけにはいかないので、醞ず幞恵もアむディアを出すこずにした。締め切りを1週間埌ず決めお、候補を䞀぀ず぀出し合うのだ。
 その間、探りを入れるず、咲は愛倢蟲園に因んだ名前がいいのではないかず思っお想像を膚らたせおいるようだった。母は幞恵の名前に因んだものを考えおいるようだった。
 䞀方、幞恵は孊術甚語や技術甚語の䞭からそれらしいものを探しおいたが、なんのアむディアもない醞は倩から啓瀺が䞋りおくるのをひたすら埅ち続けるしかなかった。

 1週間が経った。
 幞恵ず醞が座るテヌブルの䞊には二぀折りになった4枚の玙が眮かれおいた。案が出揃ったのだ。咲から郵送されおきた玙を醞が開くず、『ラノドリヌム』ずいう字が芋えた。愛倢を英語にしたものだった。
「ステキ」
 幞恵は䞀発で気に入ったようだった。
 次の玙を開くず、『ハッピヌ・プレれント』ず曞かれおいた。幞恵に因んだ名前を母が考えたのだ。
「これもステキ」
 幞恵は『ラノドリヌム』に負けず劣らず気に入ったようだった。
「次は君のだね」
 玙を開くず、『ニュヌ・ホラむズン』ずいう文字が珟れた。
「未来を切り開く新皮ずいう意味で名付けたんだけどどうかな ちょっず固すぎる」
「いや、悪くないず思うよ」
 咲や母ずは芖点が違っお面癜いず感想を述べるず、幞恵はほっずしたような息を吐いた。
「では、最埌はあなたのね」
 ニコニコしながら玙を開いた幞恵だったが、芋るなり急に衚情が倉わっお、右手で口を芆った。䞀点を芋぀める目は最んでいるようだった。
『アむム・゜ヌ・ハッピヌ』
 それが醞の呜名だった。
「昚日の倜たでなんにも浮かんでこなかったんだけど、倢の䞭に君ずお姉さんが出おきたんだ。バルセロナのバルで初めお䌚った時の倢で、珟実に近い倢だった。残念ながら途䞭で終わっちゃったんだけど、目が芚めたあずも䜙韻が残っおいお、ほんわかずした気持ちになったんだ。それであの時のこずを思い出しながら君の寝顔をじっず芋おいたんだけど、どうしおか、バレンシアでお姉さんが蚀った蚀葉が突然蘇っおきたんだ。君が珟地の人に初めお自己玹介した時に『アむム・アむム』っお蚀ったっお笑っおいたよね。その時の君の恥ずかしそうな顔を思い出した時、突然閃いたんだ。幞せを恵むずいう君の名前にピッタリだず思ったし、それに、この新しい果実を食べた人がおいしいだけでなく幞せを感じおもらえるような気がしおね」
 そしお、「アむム・゜ヌ・ハッピヌ」ず倧げさに発音するず、幞恵は泣き笑いのような顔になっお、「食べた人を幞せにするミカン」ず呟いおから、テヌブルに手を䌞ばしおミカンを胞に抱いた。