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2年後、そぎ芽継ぎした枝に次々と実が成った。それは予想よりも早かったので成熟具合が気になったが、それでも、摘果作業をしている時はワクワクが止まらなかった。
「さあ、どうかしら」
もぎ取った新種を姉が右手に持って左手で優しく撫でると、急にドキドキしてきて胸に手を当てた。するとそれが伝わったのか、「私も同じだよ」と後ろで教授が笑った。その後ろで助手二人が頷いていた。
「では」
姉が徐に皮を剥くと、ミカンともオレンジとも違う濃いオレンジ色の房が現れた。
「いただきます」
姉が頬張って、今から噛むわよ、というふうに目配せをした。次の瞬間、
「ワッ、すっごくジューシー。それに、甘い!」
満面笑顔になった。それを見てたまらなくなり、すぐに皮を剥いて、口に入れた。
甘かった。予想をはるかに上回る甘さだった。でも、それだけではなかった。新たなことを発見した。種がないのだ。だから、なんの心配もなく噛むことができた。
「凄~い」
それしか言えなかったが、横を見ると、教授も姉と同じように満面笑顔になっていた。
「想像以上だね」
教授が親指を立てると、助手二人も両手の親指を立てた。誰もが最大級の満足を感じていた。
「ありがとうございました。先生のご指導がなければこんなにも美味しいものは作れませんでした。なんと言って御礼を申し上げたらいいのか」
さっきまで恵比寿さんのような顔をしていた姉が真剣な表情になっていた。
「いえいえ、お二人のご努力の賜物ですよ。私はほんの少しお手伝いしただけですから」
少し照れたような表情を浮かべた教授が頭を掻いた。
*
教授と助手が帰ったあと、収穫した新種を前に姉が首を捻っていた。
「どうしたの?」
横に座って顔を覗き込むと、「名前」とだけ言って、また首を捻った。
「名前?」
「そう、この新しいミカンの名前、どうしようか」
「そっかー、名前か~」
作ることばかり考えていたので、その先のことまで頭が回っていなかった。しかし、権利を保護するための新種登録をしなければならず、それには名前が必要だった。
それに販売のこともある。他のミカンと差別化するためにもインパクトのある名前を付けなければならないのだ。
「何かアイディアはある?」
「う~ん、そうね~」
頭には何も浮かんでいなかった。それに、理詰めに考えていくのは得意だったが、右脳を使って何かを考え出すのは苦手だった。それでも現物を持ったら何か浮かんでくるかもしれないと思ってやってみたが、当然のことながら新種は無言を貫いていた。目を上げると、姉の催促するような視線が待ち受けていた。
「そうね、う~ん、カリフォルニア・オレンジとバレンシア・オレンジと温州ミカンの交配だから……、う~ん、カリバレミカンとか」
探るような目で姉を見たが、「何それ?」と一発で却下された。
「う~ん、種が無くて、甘くて、ジューシーだから……、う~ん、何も出てこない。私、ネーミングのセンスない」
両手を広げて首を振ると、姉も同じようで、新種を睨んだままゆらゆらと首を振り続けた。
2年後、そぎ芽継ぎした枝に次々と実が成った。それは予想よりも早かったので成熟具合が気になったが、それでも、摘果作業をしている時はワクワクが止まらなかった。
「さあ、どうかしら」
もぎ取った新種を姉が右手に持って左手で優しく撫でると、急にドキドキしてきて胸に手を当てた。するとそれが伝わったのか、「私も同じだよ」と後ろで教授が笑った。その後ろで助手二人が頷いていた。
「では」
姉が徐に皮を剥くと、ミカンともオレンジとも違う濃いオレンジ色の房が現れた。
「いただきます」
姉が頬張って、今から噛むわよ、というふうに目配せをした。次の瞬間、
「ワッ、すっごくジューシー。それに、甘い!」
満面笑顔になった。それを見てたまらなくなり、すぐに皮を剥いて、口に入れた。
甘かった。予想をはるかに上回る甘さだった。でも、それだけではなかった。新たなことを発見した。種がないのだ。だから、なんの心配もなく噛むことができた。
「凄~い」
それしか言えなかったが、横を見ると、教授も姉と同じように満面笑顔になっていた。
「想像以上だね」
教授が親指を立てると、助手二人も両手の親指を立てた。誰もが最大級の満足を感じていた。
「ありがとうございました。先生のご指導がなければこんなにも美味しいものは作れませんでした。なんと言って御礼を申し上げたらいいのか」
さっきまで恵比寿さんのような顔をしていた姉が真剣な表情になっていた。
「いえいえ、お二人のご努力の賜物ですよ。私はほんの少しお手伝いしただけですから」
少し照れたような表情を浮かべた教授が頭を掻いた。
*
教授と助手が帰ったあと、収穫した新種を前に姉が首を捻っていた。
「どうしたの?」
横に座って顔を覗き込むと、「名前」とだけ言って、また首を捻った。
「名前?」
「そう、この新しいミカンの名前、どうしようか」
「そっかー、名前か~」
作ることばかり考えていたので、その先のことまで頭が回っていなかった。しかし、権利を保護するための新種登録をしなければならず、それには名前が必要だった。
それに販売のこともある。他のミカンと差別化するためにもインパクトのある名前を付けなければならないのだ。
「何かアイディアはある?」
「う~ん、そうね~」
頭には何も浮かんでいなかった。それに、理詰めに考えていくのは得意だったが、右脳を使って何かを考え出すのは苦手だった。それでも現物を持ったら何か浮かんでくるかもしれないと思ってやってみたが、当然のことながら新種は無言を貫いていた。目を上げると、姉の催促するような視線が待ち受けていた。
「そうね、う~ん、カリフォルニア・オレンジとバレンシア・オレンジと温州ミカンの交配だから……、う~ん、カリバレミカンとか」
探るような目で姉を見たが、「何それ?」と一発で却下された。
「う~ん、種が無くて、甘くて、ジューシーだから……、う~ん、何も出てこない。私、ネーミングのセンスない」
両手を広げて首を振ると、姉も同じようで、新種を睨んだままゆらゆらと首を振り続けた。



