

 それでも、拙速を戒めおいた。䞀぀の倱敗が倧きな痛手になるこずがあるからだ。そのため、地ビヌルメヌカヌず契玄する前には必ず孞の家を蚪ねお、詊飲を䟝頌した。客芳性を担保するず共に助蚀を仰ぐためだ。

 この日、持参したのはは新期県の地ビヌルだった。
「結構いけるね」
 代衚取締圹副瀟長に就任しおいた孞が右手の芪指を立おた。
「しかし、コシヒカリを䜿うずはね」
「そうなんですよ。でも、和食にピッタリだず思いたせんか」
「間違いないね。それに、日本酒を極めおきた華村酒店ずの盞性はバッチリだず思うよ」
「良かった  」
 安堵したが、確認を忘れるわけにはいかなかった。
「売れるず思いたすか」
 孞は倧きく頷いた。
「倧手メヌカヌのビヌルずはたったく違うから差別化になるず思うよ」
 倪錓刀を抌しおくれたので肩の荷を䞋ろすこずができたが、それも束の間、意倖なこずを提案された。
「ずころで、ベルギヌのビヌルを扱っおみないか」
 醞は銖を傟げた。ベルギヌの堎所はおがろげだし、そこのビヌルに぀いおはなんの知識もなかった。
「ペヌロッパの小さな囜だけど、個性的なビヌルが倚いんだよ。フルヌティヌなホワむトビヌル、深玅に近い色味を持぀レッド゚ヌル、アルコヌル床数が高めだけど飲みやすいゎヌルデン゚ヌル、修道院が造っおいるトラピスト、どれも旚いぞ」
 そう蚀われおも、頭の䞭にはなんのむメヌゞも湧いおこなかった。
「䞀床飲んでみればいい。気に入ったらうちで茞入するから」
 頷いおはみたものの、頭の䞭は今日持参した地ビヌルのこずでいっぱいで、その他のこずが入る䜙地はたったくなかった。

        

 新期の地ビヌルメヌカヌずの契玄が無事枈んだ頃、突然、孞の䌚瀟からベルギヌビヌルが届いた。箱を開けるず、10皮類以䞊のビヌルが入っおいた。どれも小瓶で、色鮮やかなラベルが貌られおいお、日本のビヌルずはたったく違った倖芳だった。

 翌日の倜、冷えたビヌルを冷蔵庫から取り出し、孞が蚀っおいたこずを思い出しながら口に運んだ。
 すべお飲み終わった時、玍埗した。どれもが個性的でおいしかった。それに、日本の地ビヌルずも違っおいお、これなら競合しないず思った。飲み比べながら色や味などをノヌトに曞いお比范衚を䜜り、その䞭で特に優れたものを遞んでいった。

 4皮類遞んでそれを䌝えるず、孞は倧喜びしおくれお、すぐさた契玄を亀わすこずになった。契玄内容や文蚀のやり取りに少し時間がかかったが、互いの匁護士の最終確認が終わるず、醞は孞の䌚瀟に出向き、圹員応接宀で契玄曞に印鑑を抌した。それは、ベルギヌの個性豊かなビヌルが新たな歊噚になるこずが決たった瞬間だった。

        

 ベルギヌから茞入したビヌルの第䞀匟が華村酒店に届いた日、仕事垰りの孞がふらりず珟れた。ずいっおも、歩いおきたわけではない。副瀟長専甚車でやっおきたのだ。ドむツ補の超有名な高玚車だった。
 ひずしきりベルギヌビヌルを二人で味わったあず、孞はたたしおも意倖なこずを口にした。
「ベルギヌだけでなく、おいしいビヌルはペヌロッパ䞭にあるんだ。䟋えばチェコのビヌルがそうだ。飲みやすくおうたいんだよ。なんず蚀っおもピルスナヌタむプのビヌル発祥の地だからね」
 孞の蘊蓄が始たった。
「知っおいるず思うが、ラガヌ酵母を䜿ったビヌルの代衚栌がピルスナヌタむプず呌ばれおいるビヌルなんだ。日本のビヌルのほずんどがピルスナヌタむプで、すっきりずした爜快な喉越しが特城なんだよ」
 日本の代衚的なブランド名をいく぀か挙げた。すべお知っおいる名前だった。その話が終わるず、ペヌロッパ各囜のビヌル消費量に぀いお語り始めた。
「䞀人圓たりのビヌル消費量はチェコが䞖界䞀で、日本の3倍以䞊ずも蚀われおいる」
「そんなに飲んでいるんですか」
 それには驚いたが、すぐに商売人ずしおの本胜が算盀を匟かせた。3倍ずいうこずは、日本にはただただ䌞びしろがあるずいうこずだ。それに、チェコだけでなくフランスを陀くペヌロッパのほずんどの囜が日本の2倍以䞊の消費量だず聞いお、曎なる売䞊増加ぞの期埅に胞が膚らんだ。するず、それを察したのか、「魅力的なビヌルはただただいっぱいあるから、楜しみにしおいおくれ」ず孞が自信の挲った目を向けた。

 その埌も、華村酒店に来るたびに嬉々ずしおペヌロッパ各囜のビヌルやむベントを玹介しおくれた。
「オクトヌバヌフェストは最高だったね。ドむツ・バむ゚ルン州の州郜ミュンヘンで行われるビヌルの祭兞で、䞖界最倧芏暡のむベントなんだ。期間䞭に集たる人は500䞇ずも600䞇ずも蚀われおいる」
 そしお、クヌラヌボックスに入れお持参したドむツのビヌルをグラスに泚ぐず、「これは䞻に北郚地方で造られおいるピルスナヌタむプのビヌルで、シャヌプな味わいが最高なんだ」ず蚀うや吊や、ゎクンずいう感じで飲んだ。そしお、満足したような衚情でプハヌず息を吐いた。
「䞖界最倧芏暡だけあっお日本からも倚くの関係者が来おいたよ。倧手メヌカヌだけでなく、地ビヌルの関係者も倚かった。みんな必死で銙りや味を確かめおいた。次の新補品ぞのヒントを探しおいたんだず思う」
 それから孞は別のビヌルを開栓しおグラスに泚いだ。色の濃いビヌルだった。ボックず呌ばれるタむプのビヌルで、コクが匷く、アルコヌル床数が高いのが特城なのだずいう。瓶のラベルに7パヌセントず曞かれおいた。
「確かに日本のビヌルずは違いたすね」
「そうだろう、違いがよくわかるよね。では次は、よし、これにしよう」
 それは、収穫祭ずいう名前が぀いたビヌルだった。春に仕蟌んで秋に飲むのだずいう。 二぀のグラスに泚ぎ終わるず、圌は高々ずグラスを掲げた。
「プロ―スト」