🍶 倢織旅 🍶 䞉代続く小さな酒屋の愛ず絆ず感謝の物語

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「もう、限界だ」
 リビングに入るなり、オヌナヌが萜胆の声を出した。奥さんも残念そうに顔を䞋に向けた。幟床ずなく襲いかかる山火事が心を折ったようで、疲れ切っおいるのが手に取るようにわかった。今回の火事は特に酷く、それが垌望の光を消し去ったのは間違いなかった。
「必死になっお消火したけど、ダメだった」
 葡萄畑の半分が焌倱したずいう。
「それに、私たちも歳を取った」
 䜏居ずワむンの補造蚭備は幞いにも被害を免れたが、葡萄畑を元に戻す気力はないずため息を぀いた。
「だから、フロリダぞ移ろうかず考えおいる」
 保管庫にあるワむンを売り払っお、䜙生のための資金にする぀もりだず力なく笑った。
「ここは、どうするのですか。たさか売り払うなんおこずは」
 ないでしょうね、ずいう前に圌は銖を暪に振った。
「誰も買わないよ。畑の半分は焌けおしたったし、残った半分の暹も煙や高枩に晒(さら)されおしたった。その圱響がどんなものになるか想像も぀かない。葡萄畑ずしおの䟡倀はほずんどなくなっおしたったんだ」
 手塩にかけた葡萄畑が、カルトワむンを産んだ玠晎らしい土壌が、芋攟されようずしおいた。それは、オヌナヌず奥さんの血の滲む半生を無にするこずに等しかった。
 圌らがどれほどの苊劎を積み重ねおきたか  、
 醞は頭を振った。圌らの努力を無にしおはいけないし、そんなこずはあっおはいけないのだ。しかし、自分にはどうするこずもできない。目の前で打ちひしがれおいる圌らを助ける力はないのだ。唇を噛むしかなかった。
「朮時なんだよ」
 オヌナヌは寂しそうに笑った。
「始たりがあれば終わりがある。物事に氞遠はないんだ。そのこずを受け入れなければならない」
 暪にいた奥さんを抱き寄せお髪にキスをした。奥さんは目を瞑ったたたオヌナヌに身を預けおいた。
「劻ず二人でワむナリヌを始めた日のこずを昚日のように思い出すこずができる。あの時は無限の可胜性を疑わなかった。なんでもできるず信じるこずができた。䜕床倱敗しおも立ち盎るこずができた。倱敗すればするほど、なにくそ ずいう負けじ魂が沞き起こっおきた。次から次ぞず゚ネルギヌが湧いおきたんだ」
 そこでふっず笑った。
「若かったんだよ。若いっおいうこずは本圓に玠晎らしい」
 奥さんが顔を䞊げお、そうね、ずいうように芋぀めるず、オヌナヌはたた髪にキスをした。
「い぀たでも若さを保おればいいんだが、そうもいかない。人はい぀か幎を取り、若さから遠く離れおいく。ハリがあった肌には皺やシミが増え、ほうれい線は深くなる。髪の毛は少なくなり、残った髪も癜髪だらけになる。信じられないこずだが、お爺さんになっおしたうんだよ。幌い頃に祖父ず写った写真を芋たらよくわかるよ、あの時の祖父ず同じ幎霢になったこずをね。残念だが、それが珟実なんだ。そしお、その珟実を受け入れなければならないんだ」
 圌は巊手を奥さんの䞊半身に、右手を膝裏に眮いお抱きかかえようずした。しかし、そのたたの姿勢で苊笑いを浮かべた。
「お姫様抱っこはもうできない」
 銖を匱々しく巊右に振るず、いいのよ、ずいうふうに奥さんがおでこにキスをした。
「あなたのせいではないわ、私が倪っおしたったからよ」
 ずおも愛おしそうにもう䞀床キスをするず、圌は奥さんの膝裏に眮いた右手を離しお、その手で圌女の髪を優しく撫でた。
「これからはのんびりずゆったりず穏やかな時間を過ごそうね」
 そうね、ずいうふうに奥さんが目を现めるず、圌の芖線がこちらに向いた。
「ゞョヌ、フロリダにも遊びに来おくれるかな」
 吹っ切れたような衚情に柔らかく包み蟌たれた時、突然、熱い䜕かが䜓の内から蟌み䞊げおきた。それは、このワむナリヌを受け継ぎたいずいう匷い想いだった。だから、〈わたしに譲っおいただけたせんか〉ずいう蚀葉が口から飛び出しそうになった。
 しかし、それを声に出すこずは出来なかった。そんな力はないのだ。華村酒店を経営するだけで粟䞀杯なのに、ワむナリヌにたで手を出すこずは出来ない。ただ黙っおフロリダに送り出しおあげるこずしかできないのだ。