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 駐日外国公館説明会の準備に没頭している時、醸の元に外務省から手紙が届いた。恐る恐る封を開けると、三つ折りになった手紙が一枚入っていて、試飲用を送った30の在外公館すべてから調達希望が来たと書いてあった。
「ヤッター!」
 思わず大きな声が出てしまった。
「どうしたの?」
 普段と違う声に驚いたのか、奥から幸恵が慌てた様子で店に入ってきた。
「凄いことになった」
 手紙を見せると、「まあ!」と幸恵は目を満開にしながら口に右手を当てた。それで心がばら色になりかけたが、一転して不安が襲ってきた。
 在庫だ。今回の分はなんとか賄えそうだが、その先注文が増えることを想定しておかなければならない。慌てて受話器を手にした。

「えっ、全部? 30か所全部?」
 咲の声がひっくり返った。
「そうなんだ。それで在庫なんだけどさ、大丈夫?」
 しかし、受話器に声は届かなかった。
「大丈夫じゃないの? 品切れとかになると大変なことになるよ」
 すると、弱々しい声が返ってきた。
「うん、わかってる」
「それに、試飲説明会がうまくいったら外国公館からの注文も来るし」
「それもわかってる」
 しかし、そこでまた声が消えた。今度は長かった。それでも待つしかなかった。
「とにかく、」
 やっと声が戻ってきたが、それは不安を消してくれるものではなかった。
「考えられる最低量と最大量を出さないと在庫と生産量が大丈夫かどうかわからないから、大至急その数字を教えて」
 そこで突然切れた。不安は緊張に変わった。