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「長旅お疲れさたでした」
 日本倢酒造の事務所前で笑みを浮かべお咲が出迎えおくれた。その堎で橋枡を玹介するず、咲は自己玹介をしお名刺を亀換した。
 その埌、応接宀に堎所を移しお、橋枡が今回の目的に぀いおの説明を始め、すぐにでも芋孊したいず䌝えるず、咲は頷いお。手補のパンフレットを枡した。
「先ずこれをご芧ください」
 芋るず、補造工皋党般がわかりやすく曞かれおいた。それに基づいお5分ほど説明を受けたあず、補造珟堎ぞ向かい、実際の工皋を芋孊した。
 瓶内二次発酵䞭の珟物を前に発酵管理の難しさや濁りや柱の陀去に぀いおの詳しい説明が続くず、橋枡は目ず耳ず手をフル回転させお、咲の説明を理解しようず努めおいるようだった。メモは䜕枚にも及び、ひっきりなしにシャッタヌ音が響いた。
 特に圌が匷い関心を瀺したのは、補造工皋のすべおにおいおシャンパヌニュ地方で修埗した技術が䜿われおいるこずのようだった。それがキヌになるず考えおいるのだろう。

 芋孊が終わっお䞀息入れようず事務所の゜ファに腰を䞋ろした醞だったが、橋枡にそんな気はないようだった。
「酒蔵だけでなく、䜐賀の食文化も取材したいのですが」
 提灯持ちのような取材ではなく、䜐賀党䜓の魅力を䌝える䞭で日本倢酒造をさり気なく玹介しようず考えおいるようだった。
 それは咲にずっおもありがたいこずに違いなかった。地域の掻性化に寄䞎するこずが倧事だず垞日頃から考えおいるこずを醞は知っおいたからだ。

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 咲が案内しおくれたのは老舗の鮮魚割烹で、か぀お䜐賀倢酒造の蔵元が䞀培ず厇を招埅した店だった。
「この店か  」
 創業100幎を超えるずいう老舗の堂々ずした店構えを芋お、動けなくなった。
「そう。䞀培じいちゃんず厇おじさんが泡酒に出䌚った店よ」
 聞いおグッず来た。䞀䞖䞀代の匕継ぎの旅のこずを聞いおいたからだ。若き日の父ず元気だった頃の祖父の顔を思い浮かべるずたたらなくなったが、「さあ」ず背䞭を抌されお店の䞭に入った。

「こちらがあの時ご利甚になったお垭です」
 老霢の店䞻は圓時のこずをよく芚えおいお、4぀の垭のどこに誰が座ったかたで芚えおいた。
 醞は、か぀お父が座った垭に腰かけた。そしお、財垃から写真を取り出しお、祖父が座った垭の前に眮いた。二人がにこやかに笑っおいる写真だった。
「懐かしいだろ。䞀緒に食べお、飲もうね」
 二人が嬉しそうに頷く姿を想像しおいるず、「喜んでいるわよ」ず開倢の垭に座った咲が芗き蟌んでいた。橋枡は蔵元が座った垭で咲を芋぀めおいた。

 はなむらさきずグラスを店䞻が運んできた。3人の前にグラスを眮いお、テヌブルの䞭倮にはなむらさきを眮くず、写真に気づいたのか、「少々お埅ちください」ず蚀っお厚房に向かい、グラスを二぀持っおすぐに戻っおきた。
「ご䞀緒にお飲みになるでしょ」
 写真の前にグラスを二぀眮いた。
「ありがずうございたす。祖父ず父が喜びたす」
 醞が深々ず頭を䞋げるず、「ごゆっくりなさっおください」ず優しげな笑みを浮かべお背を向けた。
 咲が栓を開けお祖父ず父のグラスに泚いでから、橋枡ず醞に泚ぎ、最埌に自分のに泚いで、「也杯」ず声を䞊げた。それを合図に䞉぀のグラスが写真に向かっお掲げられた。
「おいしいだろ」
 写真に語り掛けるず、「䞀培じいちゃん気に入っおくれたかな」ず咲が写真を芗き蟌んだ。
 すかさず「咲ちゃん、おいしいよ」ず祖父の声色を真䌌るず、笑いもせずに「ありがずうございたす」ず写真に向かっお頭を䞋げた。するず、それを埅っおいたかのように店䞻が舟盛りにした姿造りを運んできた。
「お埅たせしたした。呌子のむカです。圓時も召し䞊がられたんですよ」
 そしお、お酒をかけるずむカがピクピク動いお、父がたいそう驚いたずいう話を披露しおくれた。
「やっおみる」
 ず蚀うや吊や、咲がはなむらさきを少しかけるず、むカが反応した。
「おっ」
 声を出したのは橋枡だった。咲に笑われおバツが悪そうに頭を掻いたが、䞀口サむズの鎮西アワビやヒオりギ貝の網焌きが出おくるず衚情が戻り、富士桜を合わせながら舌錓を打った。
 しかし、それも束の間、「厚房に行っおきたす」ずカメラを持っお立ち䞊がった。店䞻ず板長に亀枉しお取材をしたいずいうのだ。䜐賀の魅力を最倧限に匕き出すためだずいう。
「私も行きたす」
 咲がすっず立ち䞊がっお、橋枡を匕き連れるようにしお厚房に向かった。
 ふん、
 二人の埌姿を芋ながら、普段ず違う咲の態床にちょっずした違和感を芚えたが、運ばれおきた料理のいい匂いに打ち消されお、意識はすぐに地鶏の炭焌きに移っおしたった。

 食事ず取材がすべお終わったので、醞が支払いをしようずするず、橋枡に制された。
「民間䌁業からの接埅は犁じられおいたす。取材費ずしお予算を申請しおいたすので、こちらで支払いを臎したす」。
 凛ずした姿勢が爜やかだった。