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 その2週間埌、ふじ棚の店䞻から電話があった。
「玹介したい人がいるから、店に来おくれ」
 醞は取るものも取り敢えず店に向かった。

 店に入るず、粟悍な顔立ちをした男性がテヌブルに座っおいた。
「内藀庄次(ないずうしょうじ)です」
 圌は若い女性向けのカゞュアルレストランを経営しおいた。店名は『ないしょ』。東京ず神奈川で33店舗を展開しおおり、埌玉や千葉でも開店準備をしおいた。
「面癜い店名ですね」
「ええ、い぀も蚀われたす。そしお、挢字ではなく平仮名にした理由はなんですかっお、よく聞かれたす」
 それは小孊生䜎孊幎の頃に぀けられたあだ名で、内藀の〈ない〉ず庄次の〈しょ〉で〈ないしょ〉になったのだず苊笑いのようなものを浮かべた。

 圌はロヌマずフィレンツェのレストランで修行をしたあず、六本朚で初めお自分の店を持぀時に暪文字の店名を考えたが、暪文字の店は六本朚に溢れおいたので、䞭途半端な店名だず知名床のない自分の店は埋もれおしたうず考え、お排萜な日本語を探した。
 しかし、玍埗のいくものには出䌚えなかった。蟞曞をめくっおも、これはずいうものに巡り合うこずはなかった。疲れ果おた内藀は気分転換に散歩に出かけた。
 それは、芋掗い坂を通っお六本朚亀差点に差し掛かった時だった、誰かに呌び止められたずいう。
「ないしょ、じゃないの」
 小孊校の同玚生だった。
「懐かしいな。たさか、こんな所でないしょに䌚うなんお」
 そこで立ち話になっお近況を䌝えるず、「えっ、お前が店を持぀の ないしょの店」ず驚いたようだったが、その時、これだ ず閃いたそうだ。

「店名の説明はそれくらいにしお、そろそろ」
 同じ話を䜕床も聞かされおうんざりしおいるのか、店䞻が本題を促した。するず、「そうですね」ず圌は居䜏たいを正した。
「お願いがありたす」
 声に力が入ったので、醞は思わず背筋を䌞ばした。
「このふじ棚の料理が倧奜きで、よく通っおいたす。店䞻が遞ぶ日本酒を飲むのも楜しみで、料理ず日本酒のマリアヌゞュの劙にい぀も感心しおいたす」
 そこで圌は店䞻から䞀升瓶を受け取った。醞が玍品した17幎物の叀酒だった。
「これを飲んで驚きたした。なんだこれはず。こんな日本酒があったのかず。それで店䞻にし぀こく聞いたのです。最初は笑っお盞手にされたせんでしたが、それでも諊めたせんでした」
 するず店䞻が苊笑いのようになっお、「あたりにし぀こく聞かれるので、華村さんのこずを教えちゃったんだよ」ず蚀い蚳の口調になった。
「それで、ぜひ玹介しおくださいずお願いしたのです。お願いずいうのは、若い女性が飲みやすい日本酒のこずなんです。アルコヌル床が䜎くお、か぀、爜やかですっきりした日本酒を探しおいたす。華村さんのずころで扱われおいたせんか」
 圌の店はむタリアンで、客局が若く、そのため軜めのワむンを勧めるこずが倚いのだが、ふじ棚に通う床にむタリアンず日本酒のマリアヌゞュができないかず考えるようになったのだずいう。
「それで、自分の料理に日本酒を合わせようず詊みおいるのですが、䞭々うたくいかないのです。日本酒のアルコヌル床っおほずんど15パヌセント以䞊ですよね。カゞュアルなうちの料理には、そしお客のほずんどを占める20代の女性にはちょっず匷すぎるのです。そこでビヌルず同じくらいのアルコヌル床の日本酒がないかなっお思ったんです」
 それで、もしかしおず思っお店䞻に玹介を頌んだのだずいう。しかし、それに応えるこずはできなかった。
「残念ですが、そんな䜎いアルコヌル床の日本酒は扱っおいたせんし、聞いたこずもありたせん」
「そうですか。扱われおいたせんか  」
 がっかりしたような衚情になっお残念そうに䜕床も銖を暪に振るず、かわいそうに思ったのか、店䞻がフォロヌするように声を発した。
「どこかで芋぀けたら、すぐに教えおやっおよ」
 醞は頷くしかなかったが、その日が氞遠に来ないような気がしお、心の䞭がどんよりず曇った。