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「華村酒店を継ごうかと思う」
考えた末に出した結論だったが、百合子は飛び上がらんばかりに驚いた。
「えっ? 今なんて言ったの?」
目がまん丸になっていた。
「お義父さんの跡を継ぎたいんだ」
「でも、あなたのご両親が……」
「それは大丈夫だと思う。私は次男だから婿養子になっても問題はない」
「でも、どうして?」
「お義父さんのように仕事に喜びを見出したいんだ」
崇にとって仕事とは、生きていくために必要な、ただそれだけの存在だった。終戦後に軍需工場が民間に払い下げられて、そこで働けることは幸せだったが、毎日同じ作業を繰り返す仕事に喜びは見いだせなかった。
それは崇だけではなかった。周りの人間もほとんど同じようなものだった。当時の多くの日本人も同じなのではないかと崇は思っていた。
しかし、一徹は違っていた。厳しい環境の中でも仕事が楽しくて仕方がないのだ。全国を飛び回って色々な人に会い、各地の銘酒や特産品と出会うことが本当に楽しくて仕方がないのだ。そして、それを客に話して喜んでもらうことがなによりの幸せなのだ。
考えてもみなかった結婚、そして百合子の妊娠、一徹が満面の笑みを浮かべて話す姿、そのすべてが人生の転機を誘発しているように感じていた。
「なんとしてでも華村酒店を継ぐ!」
崇は力強く言い切った。
「華村酒店を継ごうかと思う」
考えた末に出した結論だったが、百合子は飛び上がらんばかりに驚いた。
「えっ? 今なんて言ったの?」
目がまん丸になっていた。
「お義父さんの跡を継ぎたいんだ」
「でも、あなたのご両親が……」
「それは大丈夫だと思う。私は次男だから婿養子になっても問題はない」
「でも、どうして?」
「お義父さんのように仕事に喜びを見出したいんだ」
崇にとって仕事とは、生きていくために必要な、ただそれだけの存在だった。終戦後に軍需工場が民間に払い下げられて、そこで働けることは幸せだったが、毎日同じ作業を繰り返す仕事に喜びは見いだせなかった。
それは崇だけではなかった。周りの人間もほとんど同じようなものだった。当時の多くの日本人も同じなのではないかと崇は思っていた。
しかし、一徹は違っていた。厳しい環境の中でも仕事が楽しくて仕方がないのだ。全国を飛び回って色々な人に会い、各地の銘酒や特産品と出会うことが本当に楽しくて仕方がないのだ。そして、それを客に話して喜んでもらうことがなによりの幸せなのだ。
考えてもみなかった結婚、そして百合子の妊娠、一徹が満面の笑みを浮かべて話す姿、そのすべてが人生の転機を誘発しているように感じていた。
「なんとしてでも華村酒店を継ぐ!」
崇は力強く言い切った。



