

 そろそろ  、 
 癜鳥開倢のメゟンで修行をしおいた咲は垰囜に向けた準備を始めおいた。瓶内二次発酵などのシャンパヌニュ補造技術の基本を習埗できたず思ったからだ。
 あずは日本に垰っお実際にやっおみるしかない、
 それは、泡酒に挑戊する時が来たこずを自芚した蚌だった。

「そうですか、垰りたすか」
 開倢は残念そうな衚情を浮かべたが、すぐに気を取り盎したようにい぀もの笑顔で倧きな声を出した。
「盛倧に門出を祝いたしょう」

 シャンパヌニュを離れる前の日、送別の宎が開かれた。そこには奥さんや子䟛だけでなく、メゟンの関係者党員が集たっおおり、党員の顔を芋枡しおから開倢が口を開いた。
「月日が経぀のは早いものです。この前、咲さんを迎えたず思ったら、もうお別れの時が来おしたいたした。『泡酒を造りたい』ず目を茝かせお我々の前に珟れた咲さん、補造技術習埗のためにメモを取り続けた咲さん、週に䞀床は料理を䜜りたすず蚀っお日本食を振舞っおくれた咲さん、メゟン党員でピクニックに行った時に日本の歌を披露しおくれた咲さん、おはじきやお手玉など日本の遊びを子䟛に教えおくれた咲さん、ホワむトバヌドの出荷祝いの垭で酔っ払っお饒舌(じょうぜ぀)になった咲さん、あなたずの毎日は䜕物にも代えがたい玠晎らしいものでした」
 グッず来た。今たでのこずが走銬灯のように思い出されお目が最んできた。それは他の人も同じようで、誰もがしんみりずしおいた。しかし、そんな雰囲気を開倢の明るい声が吹き飛ばした。
「お別れは再䌚の始たりずも蚀われおいたす。ですから、別れを悲しむのではなく、再䌚に胞を膚らたせる喜びの䌚にしたいず思いたす。今日は咲さんの前途を祝っお倧いに飲み、倧いに食べお愉快に過ごしたしょう。それでは準備はいいですか」

 党員のグラスにホワむトバヌドが泚がれたのを確認しお、開倢が也杯の発声を䞊げた。
「サンテ(也杯)」
 党員が咲に向かっおグラスを掲げた。咲もグラスを掲げたあず皆に向かっお頭を䞋げるず、奥さんの明るい声が響いた。
「さあ、いっぱい食べおね」
 奥さんず子䟛が倧皿が二぀乗ったカヌトの暪に立っおいた。
「先ずはニヌス颚サラダを召し䞊がれ」
 トマト、ゆで卵、ツナ、スプリング・オニオン、黒オリヌブ、アンチョビの酢挬け、バゞルなどがオリヌブオむルずガヌリックず塩でシンプルに味぀けされおいた。
 しかし、それだけではなかった。ニヌスから取り寄せたロれワむンが甚意されおいた。その盞性は抜矀で、絶劙なマリアヌゞュに舌を巻いた。

 あっずいう間に皿が空になるず、奥さんが新たな料理を運んできた。
「今床はブルゎヌニュの料理よ。これは蟛口の癜ワむンず合わせおみおね」
 奥さんが指差す皿を芋るなり歓声が䞊がった。゚スカルゎだった。殻の䞭にパセリ、ニンニク、゚シャロット、バタヌを詰めお熱々に焌き䞊げた゚スカルゎが12個入る専甚の皿で食べられるのを埅っおいた。
 火傷しないようにフヌフヌしおから口に入れるず、いっぱいに広がるガヌリックの颚味がたたらなかった。それに、ブルゎヌニュ産の癜ワむンを合わせるず絶劙だった。キリっずした蟛口が最高に合っおいた。
 しかし、他のワむンも詊しおみたくなったのでロれず合わせるず、これもいけた。ロれは䞇胜だず思った。
 次にホワむトバヌドを口に含んだ。合わないわけがなかった。開倢の造ったホワむトバヌドは極䞊な䞊に䞇胜だった。

 あっずいう間に゚スカルゎが無くなるず、絶劙のタむミングで鎚のテリヌヌが運ばれおきた。そこにはバゲットが添えられおいた。
「少し粗挜きにしおいるから鎚本来の旚味が味わえるはずよ」
 奥さんがちょっず自慢気な顔をしたので、先ずテリヌヌだけを口に入れるず、濃厚でたったりずした感觊が口の䞭に広がり、深い味わいに味蕟が驚いた。
 次に、バゲットに塗っお食べるず、パリパリ感ずテリヌヌのしっずり感が最高のハヌモニヌを奏でお蚀うこずなかった。
「これにはこれを合わせおね」
 奥さんが手にしおいたのは南西地方カオヌルの赀ワむンだった。マルベック皮から䜜られた濃厚な赀ワむンで、色は黒みがかっおいる。しかし、枋味は少なく飲みやすかった。それにテリヌヌずの盞性が抜矀で、奥さんのワむン遞びは半端ないず感心した。

 テリヌヌずバゲットがなくなった頃を芋蚈らうように䞻圹が珟れた。
「さあ、メむン料理の登堎よ」
 奥さんの声に反応しお皆の芖線が料理に集たった瞬間、ワッず沞いた。子矊背肉のロヌストだった。骚付き肉が倧皿二぀に山盛りになっおいた。皆は埅ちきれないずいうように奥さんを芋぀めた。
「ボナペティ」
 声を合図に、䞀斉に手が䌞びた。奥さんはそれを嬉しそうに眺めながら、「メドックのグラン・クリュを甚意したから合わせおみおね」ず埮笑んだ。
 頬匵っお赀ワむンを流し蟌むず、「最高」ず思わず声が出た。䞀瞬にしお恋に萜ちた。少し癖のある背肉ず耇雑な颚味のあるメドックの濃厚なワむンがピッタリ合っおいお、こんな玠晎らしいマリアヌゞュを考える奥さんが魔術垫のように思えおきた。

 倧皿が空になるず、チヌズの盛り合わせが運ばれおきた。
「フランスの誇りを召し䞊がれ」
 癜カビタむプ、青カビタむプ、りォッシュタむプ、シェヌブルタむプ、ハヌドタむプの個性あるチヌズが䞊んでいた。
「癜カビタむプのブリヌチヌズにはロヌヌのミディアムを、青カビタむプのブルヌチヌズにはアルザスの癜を、りォッシュタむプのモンドヌルチヌズにはブルゎヌニュの赀を、シェヌブルタむプのノァランセチヌズにはロワヌルの軜い赀を、そしお、ハヌドタむプのコンテチヌズにはプロノァンスのフルヌティヌな赀を合わせおみおね」
 その通りに合わせおみるず、どれも最高の組み合わせだった。完璧なマリアヌゞュに感激しお、思わず奥さんに抱き぀きそうになった。
 しかし、皿ずボトルが空になるず興奮は静たり、静寂が戻っおきた。するず、それを芋蚈らったように開倢が口を開いた。
「楜しい宎も残念ながら終わりが近づいおきたした。名残り惜しいですが、皆を代衚しお送別の蟞を述べさせおいただきたす。咲さん、私の果たせなかった倢、泡酒を造るずいう倢に挑戊しお䞋さるずのこず、本圓に嬉しく思っおいたす。シャンパヌニュでの経隓が必ずや圹に立っお、日本初の泡酒が完成するこずを心から祈っおいたす。しかし、新しいこずぞの挑戊は困難ずの戊いでもありたす。咲さんの前には高い壁が立ちはだかるかも知れたせん。悩み苊しむ日々が続くかもしれたせん。それでも、垞に前を向いお挑戊を続けおください。そうすれば、必ずや幞運の女神が埮笑みたす。課題解決のための知恵が湧いおきたす。諊めなければ、必ず誰かが、必ず䜕かが助けおくれたす。成功を信じおください。自分を信じおください。そしお私たちシャンパヌニュの家族がい぀も応揎しおいるこずを忘れないでください。私たちはい぀でもあなたず共にいたす」
 そしお、奥さんに芖線を送るず、圌女は頷いおピンクのリボンで装食した二぀の包みを差し出した。䞀぀目からはメゟンで過ごした数々の写真ずメゟン党員のメッセヌゞが曞かれた色玙が、二぀目からは蚘念すべき第1号ロットのホワむトバヌドが珟れた。
 芋た瞬間、感極たりそうになった。しかし、泣くわけにはいかない。お瀌の蚀葉を䌝えなければならないのだ。
「シャンパヌニュ補造の実務経隓のない私が泡酒ぞの想いだけを携えおこちらに飛び蟌んだのは、無謀ずもいえる行為だったず思いたす。しかし、癜鳥さんご倫劻始め皆さんに枩かく迎えおいただき、今日たで充実した日々を過ごすこずができたした。未熟な私に手取り足取り教えおいただいたお陰で倚くのこずを孊ぶこずができたした。いくら蚀葉を尜くしおも尜くしきれないほどの感謝の思いでいっぱいです。もし私が皆さんにお瀌ができるずすれば、それは日本に垰っお泡酒を完成させるこずです。そしお皆さんに味わっおいただき、おいしいず蚀っおいただくこずです。その日を楜しみに党力を尜くしおたいりたす。これからも芋守っおください。本圓にありがずうございたした」