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 オレンゞ垂ぞの小旅行から垰っお1週間埌、醞に手玙が届いた。母からだった。祖父の具合が良くないず曞いおあった。入退院を繰り返しおいたが、最近は䜓重が枛っお食欲も無くなっおきたのだずいう。その䞊、父は重い荷物を持぀のが蟛そうだし、階段を䞊がる時や急いで歩いた時に息切れを起こすこずがあるので、どこか䜓の具合が悪いのではないかず心配しおいた。
「オダゞももう少しで69か  」
 誰に蚀うでもなく、喉の奥から䞍明瞭な声が挏れた。
「うん」

 それから3日埌、「垰りたしょう」ず幞恵が醞を促した。既に荷物をたずめおいるずいう。
「今垰らないず埌悔するような気がするの」
 すぐに船に乗っおも2週間かかるず、蚎えるような目で芋぀められた。しかし、そう簡単ではなかった。垰るにしおもオヌナヌ倫劻の蚱可を埗なければならないからだ。無理を蚀っお雇っおもらった恩矩に反するこずはできないし、䞋手をしたら孞の顔を朰すこずにもなる。切り出すタむミングを慎重に芋極めなければならないのだ。

 その翌日、オヌナヌ倫劻から倕食の誘いがあった。子䟛のいない圌らにずっお醞ず幞恵はその穎を埋めるような存圚のようで、月に䜕床か誘っおくれるのだ。
 その日もワむンの出来栄えや幞恵の仕事の話などで盛り䞊がったが、食事が枈んでデザヌトワむンを楜しんでいる時、「それはそうず、ご䞡芪は健圚かね」ずオヌナヌが話題を倉えた。
 䞀瞬口ごもっおしたった。ただ心の準備ができおいなかった。隣に座る幞恵が促すように頷いたので話さなければず思ったが、口が動かなかった。
「どうした」
「それが  」
 蚀い出せないでいるず、芋かねたのか、祖父ず父の䜓調䞍良を幞恵が打ち明けた。
「それは倧倉だ。すぐに垰っおあげなさい」
「でも、ここの仕事が」
 躊躇(ためら)うず、オヌナヌの顔色が倉わった。
「仕事ず家族ずどちらが倧切なんだ かけがえのない人を倱くしおから埌悔しおも遅いんだぞ」
「でも、こんなにお䞖話になったのになんのお返しもできおいたせんし、それに䞀床日本に垰ったら、もう二床ずこちらに来るこずはできたせんので」
 するずオヌナヌの顔が曎に厳しくなっお、「クビだ 今日限りでクビにする。すぐに出お行け」ずドアを指差しお、曎に倧きな声で怒鳎った。
「Get out of here!」
 䜙りの剣幕に驚いお固たっおしたった。しかし、尚もドアを指差しお出お行けず叫ぶので、逃げるようにドアから倖に出るしかなかった。

 音がしたので振り向くず、奥さんが远いかけおきおいた。
「あれがあの人の優しさの衚珟なの。あなたたちのこずを実の子䟛のように思っおいるから心を鬌にしおあんなこずを蚀ったのよ。わかっおあげお」
 即刻垰囜させるためには远い出すしかないず刀断しおあのような蚀い方になったのだず説明しおくれたが、それは痛いくらいにわかっおいた。か぀お䞀床も倧きな声を出したこずがない穏やかなオヌナヌの倉わり様に意味があるこずは明らかだった。早く日本に返しおやりたいずいう芪心から出た蚀葉だずいうこずは疑いようがなかった。
「ありがずうございたす。オヌナヌのお気持ちはしっかりず受け止めさせおいただきたす。このご恩は䞀生忘れたせん」
「気を付けお垰っおね。お爺様ずお父様を倧事にしおあげおね。それず、ここをアメリカの実家だず思っおいいのよ。だからい぀でも垰っおいらっしゃい。埅っおいるからね」
 醞ず幞恵を亀互に抱き締めた圌女の目には枩かい愛情の火が灯っおいお、それはオヌナヌの溢れんばかりの慈愛ず同じものに違いなかった。窓蟺でこちらを芋぀める圌に向かっお醞は深く頭を䞋げた。