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「カリフォルニアに行ってみたいんだけど……」
恐る恐る切り出すと、幸恵は驚きもせず次の言葉を待つように頷いた。
「フランス産に勝ったカリフォルニアのワインのことを知りたくなったんだ。ボルドーで修行することを考えていたけど、伝統に縛られているボルドーよりも革新に挑戦しているカリフォルニアが気になって仕方がないんだ」
しかし、カリフォルニアに一緒に行って欲しいと口に出すことはできなかった。幸恵の研修を途中で終わらせることになるからだ。そんなことができるはずはなかった。本人の意志はもちろんだが、家の期待を背負って異国に来たことはわかりすぎるほどわかっているからだ。だから、次の言葉が出ていかなかった。いや、「一緒に」ということを言う資格があるはずはなかった。そんな権利はないのだ。もし自分が華村酒店を継がないと言ったら両親がどんな顔をするか、そんなことは考えるまでもなかった。だから、「いや、でも、行ってみたいというだけのことなんだけどね」とごまかして話を終わらそうとしたが、突然幸恵の表情が変わって、思いつめたような顔になった。
「もう決めています。醸さんの夢を私も一緒に追いかけると決めているんです」
「カリフォルニアに行ってみたいんだけど……」
恐る恐る切り出すと、幸恵は驚きもせず次の言葉を待つように頷いた。
「フランス産に勝ったカリフォルニアのワインのことを知りたくなったんだ。ボルドーで修行することを考えていたけど、伝統に縛られているボルドーよりも革新に挑戦しているカリフォルニアが気になって仕方がないんだ」
しかし、カリフォルニアに一緒に行って欲しいと口に出すことはできなかった。幸恵の研修を途中で終わらせることになるからだ。そんなことができるはずはなかった。本人の意志はもちろんだが、家の期待を背負って異国に来たことはわかりすぎるほどわかっているからだ。だから、次の言葉が出ていかなかった。いや、「一緒に」ということを言う資格があるはずはなかった。そんな権利はないのだ。もし自分が華村酒店を継がないと言ったら両親がどんな顔をするか、そんなことは考えるまでもなかった。だから、「いや、でも、行ってみたいというだけのことなんだけどね」とごまかして話を終わらそうとしたが、突然幸恵の表情が変わって、思いつめたような顔になった。
「もう決めています。醸さんの夢を私も一緒に追いかけると決めているんです」



