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「御社を買い取らせていただけませんか」
崇の隣に座る學が佐賀夢酒造の蔵元に向かって具体的な内容を説明した。
「経営権の変更に伴って社名とブランド名を変えさせていただきますが、働いている方々の雇用は保証します」
蔵元は瞬き一つしなかった。窮地を救ってもらえることは嬉しいはずだが、社名とブランド名の変更に引っかかっているような感じに見えた。それでも學は声を緩めなかった。
「御社の伝統は守っていきます。お約束します。その上で世界へ雄飛するための取り組みを行いたいのです。これをチャンスと前向きに捉えていただけないでしょうか」
崇は、口を真一文字に結んで耳を傾けている蔵元から目が離せなかった。代々続いてきた『佐賀夢酒造』という由緒ある蔵名、そして『一献盛』という誇り高き銘柄が消えることに対してどういう判断を下すのか、固唾を飲んで見守り続けた。
少しして、固く結ばれていた蔵元の口がほんの僅かに動いた。しかし、厳しい表情に変化はなかった。
嫌な予感がした。断りの返事が返ってくるのではないかと、不安が増した。その時、蔵元の静かな声が届いた。
「ありがとうございます」
目は學をまっすぐに見つめながら、顎を引くように頭を少し下げた。
「ただ、」
そこで口を閉じた。それは蔵名と銘柄変更に対する拒否を表したものであると思われ、崇の緊張は一気に高まった。それは學も同じようで、厳しい表情が更に険しさを増した。決裂という言葉が頭に浮かんでいるのかもしれなかった。
崇は二人を見ていられなくなった。膝に置いた手に目を落として、蔵元の次の言葉を待った。
「御社を買い取らせていただけませんか」
崇の隣に座る學が佐賀夢酒造の蔵元に向かって具体的な内容を説明した。
「経営権の変更に伴って社名とブランド名を変えさせていただきますが、働いている方々の雇用は保証します」
蔵元は瞬き一つしなかった。窮地を救ってもらえることは嬉しいはずだが、社名とブランド名の変更に引っかかっているような感じに見えた。それでも學は声を緩めなかった。
「御社の伝統は守っていきます。お約束します。その上で世界へ雄飛するための取り組みを行いたいのです。これをチャンスと前向きに捉えていただけないでしょうか」
崇は、口を真一文字に結んで耳を傾けている蔵元から目が離せなかった。代々続いてきた『佐賀夢酒造』という由緒ある蔵名、そして『一献盛』という誇り高き銘柄が消えることに対してどういう判断を下すのか、固唾を飲んで見守り続けた。
少しして、固く結ばれていた蔵元の口がほんの僅かに動いた。しかし、厳しい表情に変化はなかった。
嫌な予感がした。断りの返事が返ってくるのではないかと、不安が増した。その時、蔵元の静かな声が届いた。
「ありがとうございます」
目は學をまっすぐに見つめながら、顎を引くように頭を少し下げた。
「ただ、」
そこで口を閉じた。それは蔵名と銘柄変更に対する拒否を表したものであると思われ、崇の緊張は一気に高まった。それは學も同じようで、厳しい表情が更に険しさを増した。決裂という言葉が頭に浮かんでいるのかもしれなかった。
崇は二人を見ていられなくなった。膝に置いた手に目を落として、蔵元の次の言葉を待った。



