6
「ちょっといいかな」
自宅に戻ってしばらくしてから、父親に呼ばれた。母親のことで話があるという。
「医者が言うには、アメリカでは特殊なジェル状のものを使って乳房を再建する手術が始まっているらしいんだが、残念ながら日本ではまだ行われていないらしい。だから下着やパットを使ってわからないように誤魔化さなければならないようなんだ」
男である自分にはそのあたりがよくわからないから手伝って欲しいと言う。
「ただでさえ癌になったことでショックを受けている上に、おっぱいが一つなくなって辛い思いをしていると思うから、支えてやって欲しいんだ」
「うん、わかった」
片方の胸がペッタンコのままでは母親の気持ちが晴れないだろうことは容易に想像できた。
「看護師さんからアドバイスを貰ってお母さんが納得できる補正下着を探してみる」
早速明日から始めると告げて部屋に戻ろうとしたが、話はそれで終わりではなかった。
「ところで、何か相談したいことがあるのかい」
「えっ?」
「何かあるんだろう?」
「何かって何?」
「それはわからないけど……」
父親が言うには、昨日の夜、母親から電話があって、咲が何か相談したがっているようだから話を聞いてやって欲しいと頼まれたのだと言う。
「別に……」
咲は父親から視線を外したが、「卒業後のことかい?」と言い当てられてしまった。しかし、そのことを口にすることはできなかった。母親の手術が終わったばかりなのだ。自分のことなんてどうでもよかった。
「お母さんの病気のことは心配しなくていいんだよ。手術はうまくいったし、転移もなかったんだから。それに入院も手術も保険がきくからお金の心配もない」
心配しているだろうことをすべて取り除くかのような穏やかな声だったので「うん」と返事したが、それ以上話す気にはなれなかった。少なくとも母親が退院して家に帰ってくるまでは自分のことは棚上げにしたかった。僅かに頷いて父親に背を向けた。
「ちょっといいかな」
自宅に戻ってしばらくしてから、父親に呼ばれた。母親のことで話があるという。
「医者が言うには、アメリカでは特殊なジェル状のものを使って乳房を再建する手術が始まっているらしいんだが、残念ながら日本ではまだ行われていないらしい。だから下着やパットを使ってわからないように誤魔化さなければならないようなんだ」
男である自分にはそのあたりがよくわからないから手伝って欲しいと言う。
「ただでさえ癌になったことでショックを受けている上に、おっぱいが一つなくなって辛い思いをしていると思うから、支えてやって欲しいんだ」
「うん、わかった」
片方の胸がペッタンコのままでは母親の気持ちが晴れないだろうことは容易に想像できた。
「看護師さんからアドバイスを貰ってお母さんが納得できる補正下着を探してみる」
早速明日から始めると告げて部屋に戻ろうとしたが、話はそれで終わりではなかった。
「ところで、何か相談したいことがあるのかい」
「えっ?」
「何かあるんだろう?」
「何かって何?」
「それはわからないけど……」
父親が言うには、昨日の夜、母親から電話があって、咲が何か相談したがっているようだから話を聞いてやって欲しいと頼まれたのだと言う。
「別に……」
咲は父親から視線を外したが、「卒業後のことかい?」と言い当てられてしまった。しかし、そのことを口にすることはできなかった。母親の手術が終わったばかりなのだ。自分のことなんてどうでもよかった。
「お母さんの病気のことは心配しなくていいんだよ。手術はうまくいったし、転移もなかったんだから。それに入院も手術も保険がきくからお金の心配もない」
心配しているだろうことをすべて取り除くかのような穏やかな声だったので「うん」と返事したが、それ以上話す気にはなれなかった。少なくとも母親が退院して家に帰ってくるまでは自分のことは棚上げにしたかった。僅かに頷いて父親に背を向けた。



