5

『年間300本が限界です』
 白鳥開夢からの返事だった。
 華村學の講演つき試飲・試食即売会の大成功に気を良くした崇は1,000本の注文を出していた。期待に胸を膨らませていたのだ。当然、開夢も大喜びすると信じて疑わなかったが、返事はつれないものだった。しかし、それは開夢の本音ではなかった。実は華村酒店からの注文を聞いた時、飛び上がらんばかりに喜んだのだ。彼はこのチャンスを逃したくなかった。すぐに1,000本は無理だったが、増産のための設備投資に着手したかった。
 しかし、家族が反対した。特に義父が「今まで家族経営で堅実に商売をしてきた。色気を出さずに堅実に商売をしてきた。だから今日がある。規模の拡大という欲を持ってはならない。今までも、これからも、堅実経営を貫き通さなくてはならない!」と言って強く反対したのだ。
 これは家訓であり、開夢が逆らうことはできなかった。諦めざるを得なかった。そのことを手紙で知った崇も諦めるしかなかった。他人がどうこう言える問題ではないのだ。二人の夢は正に泡のように消えていった。