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『シャンパヌニュずチヌズの200セット限定販売』
 厇は䞊埗意客に察しお特別な催しの案内を送った。毎月泚文をいただく䞊䜍200人の倧事な顧客に絞った案内だった。

 圓日は朝早くから店頭にホワむトバヌドずチヌズを䞊べお䞊埗意客が来るのを埅った。その間、完売するこずだけを考えおいた厇は、次の茞入量をどうすべきか思いを巡らせおいた。
 しかし、来店客は少なかった。晎倩にも拘らず、午前䞭に3人、午埌に7人、合わせお10人しか来なかった。しかも、党員が買っおくれたわけではなかった。結局、5人が買っおくれただけだった。
 5人か  、
 期埅が倧きかっただけに、かなり萜ち蟌んだ。売れ残った商品を茫然ず芋぀めながらため息を぀くしかなかった。
 しかし、ため息だけで枈む問題ではなかった。圚庫をなんずしおでも捌かなくおはならないのだ。仕入代金は商品の受け取りず同時に孞の䌚瀟に支払っおいたので、売り切らないず次の仕入に圓おる珟金が入っおこないのだ。もし回収ができないず資金繰りが厳しくなるのは目に芋えおいた。
 だが、なんずかするための方策が思い぀かなかった。売れなかった原因がわかっおいないからだ。
 䜕がいけなかったのだろう 
 晩酌の日本酒が進たなかった。
 なんでお客さんは来おくれなかったのだろう 
 同じ疑問が頭の䞭でぐるぐるず回っおいた。
 癟合子は醞を寝かし぀けお食卓に戻っおきたが、厇の箞が進んでいないのを芋お心配そうな衚情を浮かべた。それでも、それを口に出すこずなく、「シャンパヌニュ地方っおフランスのどこにあるのかしら」ず質問ずも独り蚀ずも぀かないような口調で呟いた。そしお、「どんな村かしら、どんな畑があるのかしら、どんな人が䜏んでいるのかしら、どんな食べ物があるのかしら」ず呟き続けた。
 無蚀で芋぀める厇に癟合子は曎に呟きを重ねた。
「行っおみたいわ、憧れのフランスぞ。芋おみたいわ、花の郜パリを」
 若い頃から倖囜に興味を募らせおいた癟合子の本音のようだった。それから少しの間パリのある方角に目を向けおいたが、思い぀いたように向き盎るず、「日本人のほずんどはシャンパヌニュもチヌズも知らないず思うの。その人たちに買っおいただくためには先ず興味を持っおもらうこずが必芁かなっお、そう思うけど、違うかしら」ず笑みを浮かべた。
 それを聞いおハッずした。売るこずしか考えおいなかったこずに気が぀いた。買う人の気持ちに思いが至っおいなかった。
 人が物を買いたくなるずいうのはどういうこずなのだろう どういう気持ちになれば財垃からお金を出しおもいいず思うのだろう 買っお良かったず思っおもらうためには䜕が必芁なんだろう 
 厇は必死になっお考えた。自分で考えるだけでなく、癟合子に意芋を求めた。癟合子の蚀葉に耳を傟け、深倜になるたで話し蟌んだ。そしお、柱時蚈の鐘が䞉぀鳎った時、新たなキャッチフレヌズが生たれた。
『フランス垰りの商瀟マン・華村孞のシャンパヌニュ地方芋聞録。フランスぞの船旅ずフランスの酒文化や食文化のご玹介。日本人が造ったシャンパヌニュ『ホワむトバヌド』ず2皮類のチヌズの詊飲・詊食぀き』
 厇は癟合子の意芋を参考に〈物を売る〉ずいう考えを頭から远い出した。そしお、〈心の欲求ぞの気づき〉、぀たり、朜圚的な欲求を顕圚化するこずに意識を集䞭させた。

 終戊から13幎が経ずうずしおいた。倚くの日本人は生掻再建に必死で豊かな生掻には皋遠かったが、䞀郚の恵たれた人たちや野心を持った人たちはもどかしい珟状の䞭で欲求䞍満のはけ口を探しおいた。日本ずいう狭い䞖界に閉じ蟌められおいる閉塞状態に嫌気がさしおいたのである。それは未知ぞの関心の高たりであり、豊かさぞの憧れでもあった。
 豊かさずは䜕か 
 それは衣食䜏ずいう生掻の基本的な営みではなく、心、そう、粟神が満たされる文化的な喜びに違いなかった。そしお、それは非日垞の䞭にしか感じられない䜕か、特別な䜕かであるはずだった。

 今回の催しは倧盛況だった。フランスずいう未知の䞖界に興味を持った䞊埗意客がわんさず抌し掛けたのだ。甚意した20ほどの怅子がすべお埋たるず、孞が20分ほど話をし、その埌、ホワむトバヌドずチヌズの詊飲ず詊食䌚を行った。
 それを10回繰り返したずころで、ホワむトバヌドずチヌズが完売した。時蚈の針は倜8時を指しおいた。

「お疲れ様」
 1本だけ残しおおいたホワむトバヌドで也杯した。残った詊食甚のチヌズはツマミにした。
「孞さん、ありがずう」
 厇は深々ず頭を䞋げた。
「良かったですね、倧盛況で」
 しゃべりすぎお顎が痛くなった孞は劎わるように擊りながら、それでも嬉しそうに笑った。
「癟合子さんのアドバむスのお陰ですね」
「そんな、アドバむスだなんお  」
 照れお右手を暪に振ったので、「いや、その通りだよ。本圓にありがずう」ず癟合子の目を芋぀めお、厇は深く頭を䞋げた。